望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから
 けど、やっぱり目を見て、ちゃんと話せる気はしない……緊張しすぎて。手紙で私の気持ちを書いてきたから、どうかわかってもらえると良いな……。

 こんなにも素敵なハビエル様と結婚出来るなら、マチルダ様に少々睨まれても良いのではないかという気持ちになってきた。

 だって、この人と結婚出来るなら、たとえ命の危険があろうが、万難廃して我慢する価値があるのではないのかと思ってしまって。

「……ちょっと! そこの貴女!」

 いきなりの声かけに、私は嫌な予感がしながら、おそるおそる背後を振り返った。

 ……そう。ここは城の中『彼女』が住んでおられる場所。油断なんてした私がいけなかったのだ。

 ひと筋の乱れも見えない美しい金髪の縦巻きロールがゆらゆらと揺れて、私を睨みつける憎悪の込められた鋭い青い目。王女たる身分に相応しい豪奢なドレス。彼女を取り囲むような、数人の侍女たちや離れて護衛騎士。

 ……ヒッ……!!! やっぱり、マチルダ姫様だった!! 私は彼女に睨まれてしまい、直立不動で動きを止めるしかない。

 舐めるように視線を下から上に動かし、フンっとわざとらしく鼻を鳴らした。

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