忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。

9話 敵襲

「遅っせぇぞ!」
「まぁまぁアニキ。もう少し待ってみましょうよ」

 2日後の夜半、私達は鉱山町の外れにある小屋で待機していた。
 しかし、待ち合わせの時刻になっても傭兵団に所属する連絡員は訪れていない。

 小屋に設置された粗末な机と椅子に腰かけて待ちきれないヴィシャスが貧乏ゆすりをしている。
「……足」
 指をさして窘める。

「う、…辞めるからそう睨むなよ。最近母ちゃんに似てきたな、アンタ」
 褒めているのかけなしているのか微妙なところだ。

 ガルフはクスクスと笑っていた。でかい図体の割に笑った姿は子犬みたいで愛らしい。

 でも遅いのは確かだ。待ち合わせの時刻から1時間以上が経過している。夜21時に落ち合うはずが今はもう22時をとうに過ぎている。何かあったのかもしれない。
 小屋の窓から外を覗く。

「あっ…見て。今、来たみたい。でもいっぱい…いるような?」

 ランタンの明かりが近づいてきていた。あれ…でも連絡員は一人のはずだったけれどランタンの灯は複数ある。

「ガルフ!!」
 右腕に叫ぶとヴィシャスは私を抱き寄せた。
「へい」
「???」


「火魔法:フレイム・ピラー」
 外から複数の詠唱が聞こえた。意味を理解する前に小屋を衝撃が襲った。目の前が紅蓮に染まる。

「薄汚い亜人共が!焼け死んだか?」
 小屋に近づいてきた騎士の一人が炎上した小屋の中を窺うために近づく。

「ざぁんねんっ!生きてるぜっ!」

 私を抱きかかえたヴィシャスが炎上する小屋から飛び出して騎士を斬り捨てた。魔法が命中する前、咄嗟に重力魔法で壁を作り直撃を防いだのだ。

「ったく!建物に火ィつけていいのかよ騎士様がよぉ」

「黙れ、貴様ら亜人の解放を謳う危険因子である傭兵団はどんな手を使っても駆除して構わんと達しが出ている!お仲間は既にこちらの手に落ちたぞ。貴様らも投降するがいい!」

 騎士の一団で部隊長らしき男がこちらに剣を突きつけてくる。どうやらこちらの素性をある程度は把握しているみたいだ。さすがに魔痕の女と傭兵団の長とはバレてはいないと思うけど。

「んなろぉ」
 ギラつく表情でヴィシャスは刀で敵の一団と交戦を始めようとし……。

「待ってくれ、アニキ。ここはあっしが引き受けた」
 ナイフを両手に構えたガルフが止めに入る。

「あぁん?!」
「姐さんがいるじゃねぇですか。兄貴は姐さん連れて退避してくだせェ」
「………」
「あっしが信じられねぇんで?」

「ちょっと待って!……ガルフを置いていくの!?私なら大丈夫だから」
 私達2人だけで逃げろというのか。慌てて会話に加わる。

「わぁったよ。死ぬんじゃねぇぞ」
 しかし、ヴィシャスは退避を選んだ。

「ヴィシャス!」
「舌噛むぞ。だぁってろ」
 脇と膝の後ろを抱えられて持ち上げられる。

「貴様達…何を離して!?」
 何も答えずヴィシャスはこの場から駆け出して離れる。ガルフを残して。

「待て!追えっ追えっ」
「させねっすよ」
 騎士の一団に突っ込んだ部隊長の喉元をガルフが切り裂く姿が最後に見えた。



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