忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
「うっ……」

 何でこんなことに…。襲撃を受けた小屋から離れた岩場の陰で腰を下ろしていた。
 今回は安全かつ単純な傭兵の仕事だったのではないか。

「ガルフはああ見えて斥候だ。適当に相手をしてから戻ってくる」
 心配で落ち着かない私を宥めるようにヴィシャスが言う。

「奴は一流の戦士だ。心配は時に侮辱にもなる。ガルフを信じろ」
「そうは言われても………、ヴィシャス!?腕がっ」

「ん、ああ?小屋で焼かれた時に軽く焼けちまったな」

 彼の腕の一部が火傷を負っていた。

 きっとヴィシャス一人ならば負わなかった傷だ。さっきも私さえいなければガルフを置いて逃げる必要もなかったかもしれない。

「今、治すから…治療魔法ヒール」
 彼の腕に手を当て魔法を使用する。

「んな死にそうな顔すんなって、掠り傷じゃねぇか」

 手から出る緑の光に当てられてヴィシャスの腕の火傷が治っていく。

「はははっ早速出番が来ちまったな!」

 軽く笑い飛ばしているが私は真剣そのもので返事をする余裕はなかった。
 私は懸命に治療魔法を使い続ける。

 やがて、腕がまるで何もなかったかのように綺麗な肌になったところでようやく一息つくことができた。

「ふぅ……ねぇ危ないことはないんじゃなかったの?」
 落ち着いたことでさっきのことを話す余裕もでてくる。

「あ~、この鉱山町は首都から離れているし、亜人は軽んじられてはいるけど、鉱夫として大事な労働力だから排斥されるほどの動きはなかったはずなんだけどなぁ」
 ヴィシャスが考え込んでいる。


「日が昇ったら調査にでもいきましょうかい?アニキ」
「ガルフ!」
 夜の闇からここ数日で見慣れた毛並みの獣人が姿を見せる。
 無事に騎士を撒いてきたようだ。

「血が…」

 彼の衣服には赤い血が飛び散っている。大けがをしているかもしれない、慌てて駆け寄る。

「これですかい?返り血ですよ返り血。あっしは無傷っす」
 ほら、とばかりに元気に腕を振り回していた。

「えぇ…」
 それはそれで引く。というかガルフさん、ヴィシャスの右腕だけあって強かったんだ…。

「引かないでくださいよ、傷がないから姐さんの治療を受けられないのは残念ですがねぇ」

 無傷が一番だ。私の拙い治療魔法を当てにされていても困る。まあ冗談で言っているんだろうけど。

< 23 / 61 >

この作品をシェア

pagetop