忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
 その後もテント内に集められていた怪我人達を回って治療を続ける。

「ふぅっ……」

 その甲斐あって今すぐ命の危険があるような人は誰もいなくなっていた。
 今は打撲を負った老人の背中を診ている。打撲だけではない、その身体はガリガリで栄養失調気味でもあると思われた。

「なぁ、あんたぁ」

 背中越しに話しかけられた。

「……なんでしょうか?」

「あんたみたいなキレーな姉ちゃんが進んでこんな場所に来るとは思わん。かといって無理矢理やらされとるわけでもなさそうだ」

「…………」

「何か目的があって来たんじゃろう?力になれることがあれば協力するぞい」

 と、言っても老骨にできることは少ないけどなぁ、と老人は咳の混じった笑い声を上げた。

「…………」

 どうしよう?もちろん聞きたいことはある。捕まった傭兵団の仲間の居場所を情報を求めて来たのだ。だけど、ストレートにそう言っていいものだろうか?、悩む。

「…………あの」

 迷った末に私は口を開くことに決める。どの道、腹芸や遠回しに情報を聞き取る技能は私にはなかった。それに虐げられている鉱山労働者ならば騎士に告げ口をするとも思えない。

「……実は私は傭兵団に入ってまして……ブグラー達、騎士団に捕まった仲間がどこにいるか調べるためにここへ来たんです。何か知らないでしょうか?」

 はやる胸を押さえながら話す。

「ふむぅ?」

 顎に手を当て私の質問に考え込んでいるようだ。

「…………」

 黙って回答を待つ。

「傭兵……かどうかは知らんが」

 長い沈黙の後に老人が口を開けた。

「騎士共がこの地下空間の更に先、鉱山道の奥に檻に入った男性が運ばれるのを数日前に見たのぉ」

「!……きっと仲間です!」
 身を乗り出す。いきなり、核心に迫れたかもしれない。

「どこの穴ですか!?」
「ちょ、ちょっと待たれぃ。今教えるからの。ついてきんしゃい」

 テントの外に老人と出る。

「確か………あそこじゃったと思う」
 入り口と真逆、地下空間の奥に空いているいくつもの穴の中の内の一つを老人は指差した。

 「あの先、線路が三本に分かれるところの真ん中だ。監督官の許可がないと入れんのよ。そこには魔鉱石の純度が高い脈があるんだが、毒気が強い。長く居ると体が蝕まれるんじゃ。反抗的な奴はそこに放り込まれる」

 聞いた内容を頭に刻み込む。

「……言っておいて何だが、おすすめはせん。出られるならば早くここから出ていきなさい。あんたは鉱山町の住人でもないんじゃろう」

 私のことを老人は気遣い心配するような眼差しをしていた。

「いいえ……仲間を見捨てるわけには……。それに……貴方達のことだって……」

 助けたい。

「ほおか、気持ちは変わらんようじゃな……ならば夜に動きなさい。警備も薄くなるじゃろうて」
 

 
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