忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
12話 鉱山労働
「それじゃ……一旦は別行動ね」
「おうよ、ヴェルゼ!何かあったら悲鳴を上げろよ。すぐに助けに行くからよ」
ヴィシャスはピックを担ぎ、鉱山労働の持ち場に向かっていく。労働者に混じり、情報収集をするためだ。
私は治療班としてケガ人の所を回っていく必要がある。
治療班とは言うが、私しかいないようだ。恐ろしいことにここには医者も治癒術師もいない。今までは労働者同士で気休め程度のことしかしれいないようだった。
広大な地下空間の隅にあるテントへ向かう。テントは粗末な布で作られたもので、風が吹き抜けるたびに揺れ、内部からうめき声が漏れ聞こえてきた。入り口の布をめくり中へ入る。
テント内は惨憺たる有様だ。地面に敷かれた藁の上に、負傷した労働者たち十数人ほどが横たわっている。皆一様にやつれ、包帯とは名ばかりのぼろ布が血で染まっていた。空気は血と汗の臭いが混じり、息苦しくランプの青白い光が、彼らの青ざめた顔を照らしていた。
羊型の獣人が、最初に目に入った。足が不自然に曲がり、骨折しているようだ。痛みに耐えかねて、低く唸っている。隣には、背中に深い鞭傷を負った人間の労働者がうつ伏せに倒れ、息も絶え絶えだ。奥には、岩崩れで潰されたらしい男が、腕を失くし、茫然と天井を見つめている。
「…………ひどい」
ブグラーのやり方は、彼等を消耗品扱いしている証拠だ。この状態では情報を聞く処ではない。まずは治してあげないと。
私の習い始めたばかりの拙い治癒魔法ではできることは少ない。それでも今ここで動けるのは私しかいないのだ。
まずは羊型獣人の男性に近づく。跪き、優しく声をかけた。
「大丈夫……? 足を見せて……治すから」
男は驚いたように目を見開く。虚ろな瞳に、わずかな光が差した。
「治す? お前、誰だ? 新入りか?」
「ええ、そう……。私が治療を任されたの……」
手を男の足に当て、集中する。魔力が体を巡り、淡い緑色の光が指先から溢れ出す。骨が正しい位置に戻る感覚が伝わり、男の表情が緩む。
「あぁ……痛みが……引く……」
周りの労働者たちがざわめく。誰かが囁いた。
「本物の治癒術師か?」
「ブグラーのクソ野郎がそんなのを連れてくるなんて……」
自分達を治す者がいるとは信じられないという表情だ。
「へ……へへ」
私は精一杯安心感を与えようとぎこちなくひきつった笑みを浮かべ治療を続ける。次は鞭傷のある人間の労働者。背中の傷を覆う布を剥がすと、化膿した傷口が露わになる。魔法をかけ、傷が塞がっていく。人間の労働者が涙を浮かべて感謝の言葉を漏らす。
「ありがとう……ありがとう……」
次は腕を失くした男性、だけど私には欠損を再生させることはできない。いいや、そもそも失った肉体を元に戻す魔法なんて聞いたこともなかった。
「ごめんなさい……私には腕を生やすことはできないの……でも……」
まだ血が流れている部位を癒し、止血させる。
「あぁ……いいんだ。これだけで十分助かった」
「…………」
「おうよ、ヴェルゼ!何かあったら悲鳴を上げろよ。すぐに助けに行くからよ」
ヴィシャスはピックを担ぎ、鉱山労働の持ち場に向かっていく。労働者に混じり、情報収集をするためだ。
私は治療班としてケガ人の所を回っていく必要がある。
治療班とは言うが、私しかいないようだ。恐ろしいことにここには医者も治癒術師もいない。今までは労働者同士で気休め程度のことしかしれいないようだった。
広大な地下空間の隅にあるテントへ向かう。テントは粗末な布で作られたもので、風が吹き抜けるたびに揺れ、内部からうめき声が漏れ聞こえてきた。入り口の布をめくり中へ入る。
テント内は惨憺たる有様だ。地面に敷かれた藁の上に、負傷した労働者たち十数人ほどが横たわっている。皆一様にやつれ、包帯とは名ばかりのぼろ布が血で染まっていた。空気は血と汗の臭いが混じり、息苦しくランプの青白い光が、彼らの青ざめた顔を照らしていた。
羊型の獣人が、最初に目に入った。足が不自然に曲がり、骨折しているようだ。痛みに耐えかねて、低く唸っている。隣には、背中に深い鞭傷を負った人間の労働者がうつ伏せに倒れ、息も絶え絶えだ。奥には、岩崩れで潰されたらしい男が、腕を失くし、茫然と天井を見つめている。
「…………ひどい」
ブグラーのやり方は、彼等を消耗品扱いしている証拠だ。この状態では情報を聞く処ではない。まずは治してあげないと。
私の習い始めたばかりの拙い治癒魔法ではできることは少ない。それでも今ここで動けるのは私しかいないのだ。
まずは羊型獣人の男性に近づく。跪き、優しく声をかけた。
「大丈夫……? 足を見せて……治すから」
男は驚いたように目を見開く。虚ろな瞳に、わずかな光が差した。
「治す? お前、誰だ? 新入りか?」
「ええ、そう……。私が治療を任されたの……」
手を男の足に当て、集中する。魔力が体を巡り、淡い緑色の光が指先から溢れ出す。骨が正しい位置に戻る感覚が伝わり、男の表情が緩む。
「あぁ……痛みが……引く……」
周りの労働者たちがざわめく。誰かが囁いた。
「本物の治癒術師か?」
「ブグラーのクソ野郎がそんなのを連れてくるなんて……」
自分達を治す者がいるとは信じられないという表情だ。
「へ……へへ」
私は精一杯安心感を与えようとぎこちなくひきつった笑みを浮かべ治療を続ける。次は鞭傷のある人間の労働者。背中の傷を覆う布を剥がすと、化膿した傷口が露わになる。魔法をかけ、傷が塞がっていく。人間の労働者が涙を浮かべて感謝の言葉を漏らす。
「ありがとう……ありがとう……」
次は腕を失くした男性、だけど私には欠損を再生させることはできない。いいや、そもそも失った肉体を元に戻す魔法なんて聞いたこともなかった。
「ごめんなさい……私には腕を生やすことはできないの……でも……」
まだ血が流れている部位を癒し、止血させる。
「あぁ……いいんだ。これだけで十分助かった」
「…………」