忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。

2話 脱出

「は?」

 突然の無茶苦茶な物言いに言葉が詰まる。
 何をいっているの?

「警備が駆けつけてくるまでに外に出る」
 ヴィシャスと名乗った男は戸惑う私の手を強引に掴むと立ち上がらせて肩に担ぐ。

「ちょっ!?……え?いきなり……なに?」
 全てが理解できない。

「いいから黙ってろ。でないと舌噛むぞ」
 ヴィシャスが地面を蹴ると崩落した天井に空いた穴から私を連れて飛び出る。身体機能を強化する魔法でも使っているのかもしれない。常人の動きではなかった。

「おっと!こいつぁ遅かったか」
「……………」
 地下牢の上、地上には騒ぎを聞きつけた警備兵が大量に集まっていた。

「貴様!悪名高き傭兵団【赤竜の覇団】首領ヴィシャスだな!」
 領主である父が兵の陣頭指揮を執っている。

「おうよ!よく知ってんな。あんたの娘を貰いに来たぜ」
 取り囲まれているピンチにも関わらず悪漢は不敵に笑う。

「その娘は凶兆の証!処刑し後顧の憂いを断つと決まったのだ。連れて行くことは許さん」
「…………」

 あぁ……父様は私を助けに来たんじゃなくて、公式の処刑前にいなくなられては困るということなのね。分かっていたけど。

「殺すから連れてくなって?……………あんたぁ、噂以上に実の親にすげぇ嫌われてんのな」
 担がれたままの私に呆れたような視線を送ってくる。

「……………」

 返す言葉もない。今更傷つくような心もないから同情の目線を送らないでよ。

「まぁ気にすんな。嫌われ者ならオレも一緒だ」
 悪党の貴方と一緒にされても全然慰めにならない……。
 領主に向き直った無法者に包囲された焦りはない。平然とした様子のまま肩をすくめた。

「家族を大事にできねー奴はクソだぜ領主様。いらねーなら丁度いい。オレにくれよ」
 再び領主に視線を戻したヴィシャスが軽く告げながら左手で刀を構える。それが開戦の合図となった。

< 4 / 61 >

この作品をシェア

pagetop