忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
「ふざけるな!者ども!侵入者を殺せ!この際、ヴェルゼリアごと巻き込んで殺しても構わん」
 領主の号令により警備兵が殺到する。手にした武器を翳し斬りかかってきた。
 嫌な鋼の輝きを放つ剣をヴィシャスは刀で受け止める。火花が散った。

「おうおう、血気盛んだねぇ。んん?何か、いつもと感覚が違げぇな………あっ!やべぇ。利き手じゃなかった!?」

 どうやら刀を持つ手を間違えたらしい。右手で私を肩に支えている以上、今更持ち替えることはできない状態だ。

「ひぇっ。ひィィっ、ちょ、ちょっと貴方大丈夫なの!?降伏した方がよくない!?」
 不本意ながら今の状態では運命共同体。彼の巻き沿いで処刑日が来る前に殺されてはたまらない。

「カハハハハハッ!心配すんなよ。ヨユーだよ。ヨユー」
 太刀で防御したまま足を上げると相手を蹴り倒す。
 その安請け合いが心配なのよ……。悪党が動き回るそうで舌を噛みそうだから言葉は出せなかった。

「っと」

 雪崩のように襲い掛かる警備兵にはキリがない。
 ヴィシャスは突き出された槍を刀でいなす。

「危ないっ!」
 私は悲鳴を上げる。別に悪漢がどうなろうとしったことではないが、抱えられた状態では巻き沿いを喰らいそうだったからだ。

 連携をとって槍で攻撃した人とは別の兵士2名が左右から飛び出し剣で斬りつけてきた。

「きかねーっつの!」
 即座に身を翻し目にも止まらぬ速さで迫る2振りの刀剣を弾き、返す刀で兵を斬りつけた。
 ヴィシャスはたった一人で数え切れないほどの兵士を相手にしている。城にいる領主の兵は決して弱い雑兵ではない、にも関わらず彼は私を肩に担いだ状態のまま涼しい顔で立ち回っていた。

 この人、強過ぎない……?自分を攫う悪党と捕縛しようとする兵士、どちらを応援すべきか分からないまま肩の上で翻弄される。

「んーやっぱ数が多くて面倒だわ、魔力は消耗するが、魔法で一気に片づけるとすっかぁ!」
 そう言うとヴィシャスが壁に足をかけると垂直に駆け上り城の塀に立つ。
 刀を脇の鞘に差し戻すと手を上方向に掲げる。

「重力魔法【ディセント】」
 上げた手を一気に振り下ろす。
 一瞬の間があった。次の瞬間、上空から兵士達に重力のカーテンがのしかかる。

「あがっ!?ぐおぁああぁぁ!!?」

 悲鳴を上げ兵士達が軒並み地面へと叩きつけられる。

「っぐ、お。馬鹿な…たかが野卑な悪党ごときがァ…高度な魔法を使うだと!?」

 地面に押し付けられた人間の中には領主もいた。他にも呻きもがく兵士もいたが皆一様に立ち上がることができない。
 上方向から降りかかる重力で動くことができないのだ。

「じゃっオレは、オレ達はこの辺で失礼するぜ。娘さんはオレが幸せにするから心配しねーようになぁ」
「ま、待でぇ」
 バイバイ、と手を振ってヴィシャスは塀から城とは逆方向に飛び降りて走り去る。
 私はこれで数年ぶりに牢屋から外に出ることになったのだった。

< 5 / 61 >

この作品をシェア

pagetop