忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
「あの老兎の後継に魔痕の女か。とても特別な存在には見えんな。まあ命令した通り女を連れてきたことは褒めてやる」
 低いしわがれ声。
 背後に置かれた組織の紋章旗から察するに彼が鉄獣武闘団の代表ゴルザだろう。獅子のような鬣を持つ巨漢。筋肉が鎧を押し上げ、手は私の胴をひと掴みできそうな程デカく、爪は剣のように鋭かった。

「ああん!?テメーの命令に従ったつもりはねぇ。喧嘩売ってんなら買うぞ。」
 一触即発の空気に。

「まぁまぁまぁ、仲良くいきましょうよ」

 別の席には翠牙の首領クード。柔和な顔つきに似合わぬ傷跡が顔にある男性で、両者を宥めるように発言する。

「…………」
 『紫黒防人』の首領シーラは細身のエルフの女性で、黙ったまま笑みを浮かべていたが、どこか怖く感じた。

 他の小組織の代表も数人が円卓を囲み、場の空気は緊張で張り詰め、わずかな物音でも反響していた。自分がどこか場違いな場に来てしまったようで居心地が悪い。

ヴィシャスが堂々と石卓の席に片膝を立てて行儀悪く座る。私はできるだけ目立たないよう静かに隣に着席した。

「ぐるる」
 ゴルザが低く唸る。

「竜人の小僧。随分な態度だな」
「あんた程じゃねぇさ」
 ヴィシャスは挑発に乗らず軽く受け流す。

「ごほん、えー、皆さん揃ったようですし。亜人同盟の話を進めましょうか。ここにいるということは各組織は現政府に反抗するため亜人同盟に加わるということで…」

 不穏な空気を感じ取ったらしい翠牙の首領クードがそう切り出そうとし、

「諸君、よく集まった! 人間の支配を打ち砕く時だ!我が鉄獣武闘団が先頭に立ち、亜人同盟を率いる!異存はないな!!」
 遮るようにゴルザが立ち上がり吠えた。声が洞窟に反響し威圧感がすごい。震えてしまう。だけどヴィシャスはそうではなかった。

「よぉ、獅子男。イキッてるところ悪いがトップの座には俺がつくと決まっている」
 軽く笑ってそう言った。場の空気が張り詰める。

 クードは額から汗を流し、シーラは面白そうにして、皆がことの推移を見守っていた。

「ほぉ、でかい口を叩く。噂は聞いてるぞ。ブグラーを倒したらしいな。だが、俺様たちの武闘団は百戦錬磨の猛者ぞろい。黙って従え」

「断る」
 ヴィシャスはにべもなく言い放つ。

「……強者に弱者は従うべきだぞ。そもそもだ、何故貴様程度の傭兵団に亜人の王となる魔痕持ちがいる?よこせ、それは百獣の王となるオレ様にこそふさわしい」

「!!?」

 固唾を飲んで見守っていたら突然矢面に立たされた。皆の注目が集まり、心臓が早鐘のようになる。

「なおさら飲めねーよそんな話。ヴェルゼはオレの女だ渡すつもりはねぇ。ボスの座もな。全部オレんもんだ」
 庇う形で抱き寄せられた。

「ちょ、ちょっとヴィシャス」
 顔が赤くなってしまう。こんな人前で抱きしめないで欲しいのだけれど。

 ゴルザが石でできた円卓を叩き、再び吼える。

「ならば理由を述べろ! なぜお前のような小僧がオレ様よりもトップに相応しいと言える?」

「強ぇから」

 一言、それだけだった。

 その言葉を引き金に間髪入れずにゴルザが円卓を飛び越え、爪をかざして襲い掛かってくる。

 鋭い刃先がヴィシャスの顔面に迫った。

 ニヤリ、と彼が笑ったのがわかる。

 ドバッッッッッ!!

 獅子の巨漢が壁に激突。ヴィシャスが巨大な爪を素手で掴みひねるとゴルザの飛び掛かる勢いを利用して壁に叩きつけたのだ。ゴルザは激突の衝撃でピクリとも動かない。

「オレがボスだ。文句はあるか?」
 ヴィシャスが周囲を見回して宣言。今度は誰も異存を唱えなかった。

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