忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
「出てこいよ、隠れてんじゃねえ」
 ヴィシャスが低く言い、太刀の柄に手を置く。森の奥から、木々が揺れ大きな影が姿を現す。ゴルザだ。周りに従えている獣人は彼の部下、『鉄獣武闘団』のメンバーなのだろう。

 「竜人の小僧……! 俺に恥をかかせた報いだ! ここで貴様は殺し、魔痕の女は奪おう!オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!」

 獅子の豊かな鬣が乱れゴルザの咆哮が森に響き、鳥たちが一斉に飛び立った。

「っひ」
 思わず身を竦めてしまう。

 「はっ、会合で負けた腹いせかよ。辞めろよ、一日に二度も負けたくねぇだろ?」

 ずい、と私を庇うように前に出た。
 ヴィシャスは涼しい顔で余裕の態度だ。それもまたゴルザの怒りを沸騰させている。
 傍らにいた鉄獣武闘団のメンバーたち二十人以上が牙を剥き、爪を構え、目が復讐の炎で燃えていた。『赤竜覇団』と『鉄獣武闘団』の間で火花が散る。激突は秒読みに見えた。

「音魔法【轟音烈波】ァァァァァ」
 口火を切ったのは『鉄獣武闘団』首領ゴルザ。鋭い牙を生やした口の奥から質量を伴った衝撃波を放つ。

「重力魔法【グラビスラッシュ】」
 ヴィシャスが刀に纏わせた重力を斬撃に乗せて飛ばす。

 ザンッッッッ!!!

 斬撃が衝撃波を断割、それでも勢いは止まらずゴルザにまで届いた。

「ごがァっ!?」
 両腕で斬撃を受け止める。皮膚の表面を切り裂き血飛沫が弾けた。

「おかしらぁっっ」
 部下が心配そうにゴルザに駆け寄る。

「今ので力の差はわかったろ?もう争いはしめーだ」

 太刀を鞘へと戻していた。

 「……敵は帝国であってオレじゃねぇ。会合であんたに恥をかかせたことは詫びるよ。ここらで手打ちにしねーか?あんたが仕返しに来たことも責めたり言いふらさねーからよ」

 先ほどまでの煽る態度は改め彼にしては真摯に歩み寄る態度を出している。これで退いてくれればいいけど……。

「ぐるるるるるっ!黙れ!俺様にはどうしてもその女がいるのだ。それさえ頂けばオレ様の領土が…」

「……領地?」

 ゴルザの発した単語が気になる。会合の仕返しや亜人同盟のボスの座を奪いに来たのではないの?どうも恥をかかせたヴィシャスより私に執着しているような……?

「ねえ?ヴィ」

「かかれぇ!!魔痕の女を奪うのだっ」
 話しかける前にゴルザが部下に号令をかけた。『鉄獣武闘団』の獣人たちが一斉に襲いかかってくる。


「させっかよ!やるぞテメーらあぁ!」
「へいっ」
「ええ」
 ガルフにナイゼル、他のメンバーも頼れるリーダーの発破に戦意を高揚させ武器を掲げて迎え撃つ。剣が風を切り、爪が空を掻いた。赤竜、鉄獣、両サイドの手勢が次々と戦いに加わり、森が剣戟の音で埋め尽くされた。血の臭いが広がり始める。ことは乱戦の体をなしていた。ヴィシャス達は私を守るように戦ってくれている。おかげで今はまだ戦闘に巻き込まれずにすんでいた。

「ヴェルゼ、狙いはあんただ!コイツ等はオレが喰いとめるっ、安全な場所へ離れてろっ」
「う、うん……」

 そう答え、場を離れようとした時だった。
 視界の端に光が輝く。森の奥から、眩い白光が加速して接近。

「え?」

 視界が白く染まり体が浮く。光に飲み込まれ目の前が真っ白に染まった。

 「ヴェルゼェ!」
 遠くでヴィシャスが叫ぶ声が聞こえた。森の景色が歪み、風が耳元を切る。気がつくと風景が変わっていた。森の奥ではなく、森の外まで出ている。

 そして私の体は光の鎖で縛られ地面に斃れ、周りを騎士達に囲まれていた。一際豪華な白銀の鎧に金髪をなびかせた青年騎士が動けない私の目の前に立つ。
「私の名は聖騎士アーサー。魔痕の女……お前を確保する」

 白銀の騎士はそう名乗った。


 
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