忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。

30話 聖騎士アーサー

「早く害獣を駆除しろ!!」

「はっ」
 貴賓席から泡を吹いて指示を送る領主に聖騎士アーサーは一礼。

「けっ、オメーにも礼はしたかったんだ。自分から現れるとはなぁぁぁぁ!」
 太刀でヴィシャスが斬りかかる。

 ガキィッ!!

 太刀と聖剣がぶつかり合う。

「ふんっ、そこの凶兆を示す女を助け出し我等を突破できると思ったか?現実を見ろ。結末は変わらない、死者が増えるだけだ」
「変わるさ。オレがいるからな!」
「馬鹿が」
 互いの得物を弾きあい再び距離が空く。

「ヴェルゼはワシの方に。嫁は任せてヌシは戦いに集中するんじゃ」

「おう!」
 ラビィルさんが私にさがるように手招きする。

 「待って、その前に」
 ヴィシャスの背中に触れ、魔痕のエネルギーを送り込む。

 「オッオオオォォォォ!!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 肉体に変化が起こる。額から緩やかに曲がった一本の竜角が生え、目は赤く輝き瞳が縦長のスリットになっていた。背中からは翼が芽吹き、膜状の大きな翼が広がり後部から伸びた尻尾が地面を叩く。先祖還り、竜人の降臨だ。

「おう、サンキュな。ヴェルゼ!」
「うん……頑張って。カッコいいよヴィシャス」
「へへっ!知ってる」

 竜の特徴を身に携え悪党は聖騎士に対峙する。

「醜い姿だ」
「ほざいてろ、カッケーだろが。愛する女の前じゃ男は最強なんだぜぇ!」

「……くだらない、愛?伴侶の価値とはいかに互いの地位を高められるか、だ。お前とて同じだろう?亜人の王になるために魔痕を欲したのだ」

「最初はそうだったかもな、でも今は違うって断言できる。オレはヴェルゼを愛してる。例え魔痕がなくってもな。お前とは違げーよ」
 刀の先を突き付ける。
「ならばその愛とやら、我が光で消し去ってやろう。光魔法【ルークレイン・ニューメラス】」
 聖騎士が手を掲げると無数の光の矢が空に浮かぶ。

「光よ、敵を貫け」
 ヴィシャスだけではない、広場にいる亜人側の戦力を的確に狙い矢の雨が降ってくる。

「へっ」
 だが竜人は笑みを絶やさない。

「重力魔法【スカイ・フォール】!!」

 空に黒い穴が空く。穴は付近の物体を圧倒的な引力で吸収。降り注ごうとしていた光の矢を吸い込み全てを消し去った。

「どう、…」
 よ、と得意げに言おうとしたのだと思う。だけどその前に光と化した聖騎士アーサーが高速移動。ヴィシャスの喉を狙う。

「っとお!!?」
 ギリギリで首を捩じって回避。聖剣による突きを太刀で受け流す。

「おらぁ!!!」

 上段蹴り。当たる前に聖騎士が再び急加速し離れていた。速い……。ビュンビュンと縦横無尽に広場を跳び回りながらヴィシャスを前後左右、あらゆる方角から斬りつけていた。

 何とか目では追えている様子だが動きが追い付いていない。致命傷となる攻撃は防げているが斬られるたびにヴィシャスの身体から血飛沫が飛んでいる。彼はそれでも野性味のある笑みを絶やさないが額には汗が滲んでいた。
 両手を絡み合わせ彼の勝利と無事を願う。

「ちょこまかとっ!?うっぜぇ聖騎士野郎が!」
 また斬られる。まずいっ、手にしていた刀が弾き飛ばされた。乱戦に紛れて彼の愛刀の姿が見えなくなる。

「くそがあっ」

「ふっ、所詮は獣」
 高台に立ち、手負いの竜人を聖騎士が見下ろす。

「光魔法【アサルト・レイジ】」
 アーサーの全身から激しい光が放たれる。そして光が一直線にヴィシャスへ向かった。

「見下してんじねぇ。ならこいつはどうだ?重力魔法【グラビティ・コンヴァージョン】!!」

 ヴィシャスを中心に円状に重力が発生。範囲内に無差別に莫大な重力の負荷がかかり、広場の地面がへこむ。

「ぐっ!?う、動けん…だと!?」
 自重の数倍を優に超える重力で聖騎士の動きが止まった。

「ご自慢の速度もこうなっちゃぁお終いだなぁ!聖騎士さんよおぉ」

 ヴィシャスが自らつくった重力空間に足を踏み入れる。彼にもまた重力の負荷がかかるが歩みを止め無い。一歩一歩進むとアーサーの前に立つと拳を握った。

「オ、オオォォォォォォォォ。沈みやがれぇ!」
「き、きさ…ま」

 ゴッッッッッッッッッッッッ!!!

 拳骨が聖騎士アーサーの顔面に炸裂、勢いよく地面へ叩きつけた。
 重力負荷も加わり地面が砕ける。魔法の効果時間が終了したがアーサーに動く様子はない。

「はぁっはぁはぁ!」
 ヴィシャスが拳を天に上げた。

「聖騎士アーサー、オレが討ち取ったぁぁぁぁ!」

 戦場中に響く堂々とした勝利宣言。味方は大将の勝利に湧き、敵軍は最大戦力の敗北に恐れおののき戦意を喪失する者までいた。
 戦いの趨勢は明らかに決している。
 
 ヴィシャスは刀を拾うと大きくジャンプして父……領主と妹の前に出ると刀を突きつけた。

「オレ達の勝ちだな」
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