囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される

プロローグ

 膝を抱え、目をつむっていた。
 ここはある上級貴族の家。地下一階の監獄に私は閉じ込められている。

 破れたドレスに素足。髪の毛は乱れ、もう何日もお風呂には入っていない。パンとスープ、貴族が食べるには質素な食事だけを与えられていた。が、私はその食事も拒んでいる。

 もうこんな世界でなんて、生きたくはない。

 その時、コツンコツンと誰かの足音がした。

「まだ《《例》》の力について、何も話さないのか?」

「はい。こちらが話しかけても返答しません」

 歩いてきた男が私を見張っている看守に話しかけているのが聞こえた。

 この(ひと)さえいなければ、私の母は――。

 ふぅと息を吐き
「いい加減、諦めたらどうだ。アイリス・ブランドン」
 呆れかえっているかのように、私の名前を呼んだ。

 あなたたちさえ、いなければ。
 私と母は今まで通り、普通の生活を送っていたのに――。
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