囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
…・…・・…・

一週間後――。

「カートレット様。アイリス様の報告書を持って参りました」

 カイルがアイリスの出生や過去について調べた資料を持って俺の部屋を訪ねてきた。

「アイリス様の証言に嘘はありません。母親はオスカー・クライトンに先日殺されています。生家にも行ってきたのですが、跡形もなく燃えて無くなっていました。遺体も骨の一部すら見つかりません。アイリス様は知らなったみたいですが、母親にはいくつか秘密があったみたいです」

 カイルからの報告は、アイリスの父親と母親は駆け落ち同然で結ばれたこと。父親はオスカーの弟であり、家紋を捨ててまでアイリスの母と一緒になった。が、それを良く思わなかったオスカーが弟の暗殺を企てた。逃げるように母とまだお腹の中にいたアイリスは北部へ向かったことなどが記載されていた。

「アイリス様の力の出現の理由がわかりません。母親の家系が追えませんでした。情報が何もないんです」

「母親の情報が追えないということは、なにかを隠したかった証拠だ。アイリスの力は隔世遺伝かもしれないな。彼女自体は、幼少期に動物の傷を治したく、祈っていたら力が現れたと言っていた。それは本当だろう。母親が力について隠せと言ったのは、聖女の《《使われ方》》がわかっていたからだ」

 オスカーは弟の妻となったアンについて調べた時に、何か聖女についての情報が得られたのかもしれない。聖女は遥か昔、過去の存在で今は存在しないと言われている。国の記録では、過去にいた聖女は力を利用され、その力を欲した者たちの争いにより殺された聖女や、一生自由を奪われ、皇帝に仕えた者もいた。どちらにせよ、力が出現した聖女は自由な人生を歩めていない。

「どうするんですか?団長。オスカーの妻であるマーガレットは獄中でアイリス様の力について話しているようです」

「ああ。わかっている」

 自分でも理由はわからないが、どこかアイリス(彼女)に惹かれていた。
 惹かれてしまうのは、聖女の癒しの力であるかと思っていたが――。
 実際のところ、関っている執事やカイルには得に感情の変化はないみたいだ。
 
 俺だけか、こんなにアイリス(彼女)のことが気になるのは。
 彼女の幸せについて考えてしまう自分が理解できなかった。

「皇帝に喧嘩を売るようなことになるかもな」

 ハハっと笑うと、カイルは青ざめた顔をしていた。

「まさか、戦争なんて起こすつもりはないですよね」


…・…・・…・
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