ママだって恋をする~年下くんに恋をして~
慌ただしい毎日
AM6時携帯のアラームが家中に鳴り響く。
手探りで携帯を探す彼女は、井上 咲41歳。
長女の花が部屋に入るなり携帯を取り、アラームを消す。
「寝坊するよ!!毎日毎日起こされないと起きないの?」花はそう言って部屋から出ていく。
咲はようやく身体を起こし、半分寝ている頭をかきながら洗面台へ行き顔を洗う。ここから彼女の慌ただしい1日がスタートする。
すぐに、双子の娘、百合と彩芽を起こしに向かう。
「起きろー!!朝だよー!!」と大きな声を出すと、別の部屋で寝ていた末っ子の息子大樹も起きてきて、目を擦りながら
「おはようございます」と丁寧に挨拶するとリビングへ向かった。
咲も急いでキッチンに行くと、花がすでに朝ごはんとお弁当を準備している。
双子の娘達も起きてきて、眠そうにぼーっとしている。「遅れるから早く準備してー!!」とまたもや大きな声を出すと、
「ハイハイ」と言わんばかりの態度でダラダラと準備を始める。
花は、保育士の専門学校に通う19歳。母親よりしっかりしていて頼りになる存在だ。
百合と彩芽は、17歳の高校2年生。同じ高校に通い、仲が良い二人は、すごくマイペース。
大樹は11歳の小学5年生。しっかりしているようで末っ子らしく甘えん坊だ。
バタバタと準備をしている中、いつも一番に家を出るのは花。
「行ってきます」と玄関から声が聞こえ、急いで玄関に向かう咲。
「行ってらっしゃい、学校頑張って」と咲が見送りをすると、「ママも仕事頑張って」と花は外に出る。
それに続いて、大樹が「僕も行ってきます!!」と咲とタッチをして外へ出ていった。
リビングに戻ると、百合は髪をセットし、彩芽はバタバタと動き回り「ネクタイがない、このままじゃ遅刻するからママ送ってー」と一人で騒いでいる。
「途中までなら送れるから早くしてよね」と咲も忘れ物がないか確認する。
時間ギリギリになりながら娘たちを途中まで送り、出勤する。これが毎朝のルーティンだ。
咲は、8年前に離婚し、現在シングルマザー。
離婚を機に田舎へ引っ越し、毎日、仕事もプライベートも慌ただしい毎日を送っていた。
高齢者の介護施設で働く咲は、みんなに優しく、いつも明るく仕事をしている。
スタッフや、おじいさん、おばあさんにも好かれ、咲自身も介護職は天職だと思えるほど、この仕事を楽しんでいる。
そんなある日、1か月ほど前に入所した加賀美 文子に呼び止められ
「窓際に連れて行ってほしい」と声をかけられた。
文子は、足が悪く、車椅子で一人暮らしだった為、自ら施設入所を希望して入ったのだ。ここに来てから1度も家族の面会がなく、一人で静かに過ごしていることが多かった。
文子から声をかけることがあまりなかったので、声をかけられたことに少し驚いたが、咲はすぐに笑顔になり
「いい天気ですからね」と話し、文子の車椅子を押す。
この施設には、各フロアに床から天井までのFIX窓があり、入居者の方が施設にいても採光や景色を楽しむことができるように設置されている。
窓の外を、文子は少し悲しげな顔で眺めていることに気づき、咲は車椅子の隣にしゃがんで一緒に窓越しの風景を見る。
青空が広がり、ゆっくりと雲が流れている。中庭には様々な色の花や黄色になりかけているイチョウの葉が見えていた。
ふと「いい天気ね。散歩に行きたいわ」と文子が小さな声で言った。それがあまりにも切なく思えた咲は、思わず「散歩に行きましょう」と笑顔を見せた。
文子は目を大きくして「本当に?外に出てもいいの?」と嬉しそうに咲を見つめた。
誰にも確認せず、反射的に言ってしまったことに、咲は流石に、"マズイか"と思ったが、言葉にしてしまった以上、文子をガッカリさせてしまうのは嫌だ。
感染症予防の為、簡単に外に出すことは出来ない、フロアのスタッフも人が足りなくなったら迷惑をかけてしまう。
少し考え、咲は文子に「少し待っていて下さい」と告げ、急ぎ足で管理者の中間 優《なかま すぐる》の部屋へと向かった。部屋に向かいながら、咲は「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら、早足で歩いていく。
大きく深呼吸。ドアをノックして部屋に入る。
「すみませんが、よろしいですか・・・・・」と申し訳なさそうに事情を話し始める。
優は真剣な顔をして、話を聞いていた。
「ダメ!!なんて言えないでしょ。入所したばかりの方は不安もあるだろうから、気持ちを考えての事だよね?
今日はスタッフも足りてるし、中庭なら大丈夫だよ。でも目を離さないで、気をつけて行ってきて。
他のスタッフにも、ちゃんと伝えて行くんだよ」と少し笑った。
咲は、その言葉に安心し、散歩に行ける喜びで「はいっ!!」と裏返った声で返事をした。優は笑って、シッシッと手を動かす。
咲は頭を下げ、部屋を出た。すぐに文子の元に戻り、文子の顔の前で「お散歩行けます!」と両手でOKサインを出すと文子は嬉しそうに頷いている。「準備してきますね」と文子へ伝え咲はその場を離れた。
咲は早速、他のスタッフに声をかけながら、飲み物を鞄に詰め、車椅子を押して中庭へと向かった。
中庭に行くためにエレベータを待っていると文子が話始める。
「私は家族に迷惑をかけたくないと思って自分で施設に入ったの。でもここでも迷惑をかけているわね。年を取ると何もできなくなって嫌になってくるわ」と両手を合わせ下を向いている。咲は胸がぎゅっと痛くなった。「迷惑なんて思っていないですよ」庭に出ると、思った以上に青空が広がり、心地よい風が吹いていた。
文子が「気持ちいいですね」と咲に話す。
咲は、「本当ですね。深呼吸したくなります。」と両手を広げた。それを見て文子も両手を広げ深呼吸した。咲は「お庭周りましょうか」と文子に話すと、文子は「そうですね。お願いします」と咲に頭を下げる。
「はい」と笑顔で返事をして車椅子を押す。
庭にはコスモスやダリアなどの秋の花が並んでいる。
咲はゆっくりと歩きながら車椅子を押す。
景色と、風を感じて、2人は何も話さず進んでいく。
半周ほどまわったところで、咲が話す。
「お茶でも飲みましょうか」咲は持っていた鞄からお茶と、紙コップを取り出し、文子に見せる。
「そうですね。少し休憩しましょう」と文子が笑う。
咲はコップにお茶を入れ、文子へ渡す。
「お花見みたいですね」と咲が言うと、
文子は「ほんとうね。お花見なんていつ以来かしら」と、少し寂しげな顔を見せる文子。
それに咲が気づく。
わざとらしく満面な笑みで文子の顔を覗く。
「お花見になにか思い出があるんですか」と咲が聞くと、文子は少し笑って、「そうね」と話す。
それから、文子は家族で花見に行って楽しかったことや面白くて笑ったこと、子供が大きくなって一緒に行けなくなったことや、自分の足が悪くなってお花を見に行くこともできなくなったことなどを話した。
手探りで携帯を探す彼女は、井上 咲41歳。
長女の花が部屋に入るなり携帯を取り、アラームを消す。
「寝坊するよ!!毎日毎日起こされないと起きないの?」花はそう言って部屋から出ていく。
咲はようやく身体を起こし、半分寝ている頭をかきながら洗面台へ行き顔を洗う。ここから彼女の慌ただしい1日がスタートする。
すぐに、双子の娘、百合と彩芽を起こしに向かう。
「起きろー!!朝だよー!!」と大きな声を出すと、別の部屋で寝ていた末っ子の息子大樹も起きてきて、目を擦りながら
「おはようございます」と丁寧に挨拶するとリビングへ向かった。
咲も急いでキッチンに行くと、花がすでに朝ごはんとお弁当を準備している。
双子の娘達も起きてきて、眠そうにぼーっとしている。「遅れるから早く準備してー!!」とまたもや大きな声を出すと、
「ハイハイ」と言わんばかりの態度でダラダラと準備を始める。
花は、保育士の専門学校に通う19歳。母親よりしっかりしていて頼りになる存在だ。
百合と彩芽は、17歳の高校2年生。同じ高校に通い、仲が良い二人は、すごくマイペース。
大樹は11歳の小学5年生。しっかりしているようで末っ子らしく甘えん坊だ。
バタバタと準備をしている中、いつも一番に家を出るのは花。
「行ってきます」と玄関から声が聞こえ、急いで玄関に向かう咲。
「行ってらっしゃい、学校頑張って」と咲が見送りをすると、「ママも仕事頑張って」と花は外に出る。
それに続いて、大樹が「僕も行ってきます!!」と咲とタッチをして外へ出ていった。
リビングに戻ると、百合は髪をセットし、彩芽はバタバタと動き回り「ネクタイがない、このままじゃ遅刻するからママ送ってー」と一人で騒いでいる。
「途中までなら送れるから早くしてよね」と咲も忘れ物がないか確認する。
時間ギリギリになりながら娘たちを途中まで送り、出勤する。これが毎朝のルーティンだ。
咲は、8年前に離婚し、現在シングルマザー。
離婚を機に田舎へ引っ越し、毎日、仕事もプライベートも慌ただしい毎日を送っていた。
高齢者の介護施設で働く咲は、みんなに優しく、いつも明るく仕事をしている。
スタッフや、おじいさん、おばあさんにも好かれ、咲自身も介護職は天職だと思えるほど、この仕事を楽しんでいる。
そんなある日、1か月ほど前に入所した加賀美 文子に呼び止められ
「窓際に連れて行ってほしい」と声をかけられた。
文子は、足が悪く、車椅子で一人暮らしだった為、自ら施設入所を希望して入ったのだ。ここに来てから1度も家族の面会がなく、一人で静かに過ごしていることが多かった。
文子から声をかけることがあまりなかったので、声をかけられたことに少し驚いたが、咲はすぐに笑顔になり
「いい天気ですからね」と話し、文子の車椅子を押す。
この施設には、各フロアに床から天井までのFIX窓があり、入居者の方が施設にいても採光や景色を楽しむことができるように設置されている。
窓の外を、文子は少し悲しげな顔で眺めていることに気づき、咲は車椅子の隣にしゃがんで一緒に窓越しの風景を見る。
青空が広がり、ゆっくりと雲が流れている。中庭には様々な色の花や黄色になりかけているイチョウの葉が見えていた。
ふと「いい天気ね。散歩に行きたいわ」と文子が小さな声で言った。それがあまりにも切なく思えた咲は、思わず「散歩に行きましょう」と笑顔を見せた。
文子は目を大きくして「本当に?外に出てもいいの?」と嬉しそうに咲を見つめた。
誰にも確認せず、反射的に言ってしまったことに、咲は流石に、"マズイか"と思ったが、言葉にしてしまった以上、文子をガッカリさせてしまうのは嫌だ。
感染症予防の為、簡単に外に出すことは出来ない、フロアのスタッフも人が足りなくなったら迷惑をかけてしまう。
少し考え、咲は文子に「少し待っていて下さい」と告げ、急ぎ足で管理者の中間 優《なかま すぐる》の部屋へと向かった。部屋に向かいながら、咲は「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら、早足で歩いていく。
大きく深呼吸。ドアをノックして部屋に入る。
「すみませんが、よろしいですか・・・・・」と申し訳なさそうに事情を話し始める。
優は真剣な顔をして、話を聞いていた。
「ダメ!!なんて言えないでしょ。入所したばかりの方は不安もあるだろうから、気持ちを考えての事だよね?
今日はスタッフも足りてるし、中庭なら大丈夫だよ。でも目を離さないで、気をつけて行ってきて。
他のスタッフにも、ちゃんと伝えて行くんだよ」と少し笑った。
咲は、その言葉に安心し、散歩に行ける喜びで「はいっ!!」と裏返った声で返事をした。優は笑って、シッシッと手を動かす。
咲は頭を下げ、部屋を出た。すぐに文子の元に戻り、文子の顔の前で「お散歩行けます!」と両手でOKサインを出すと文子は嬉しそうに頷いている。「準備してきますね」と文子へ伝え咲はその場を離れた。
咲は早速、他のスタッフに声をかけながら、飲み物を鞄に詰め、車椅子を押して中庭へと向かった。
中庭に行くためにエレベータを待っていると文子が話始める。
「私は家族に迷惑をかけたくないと思って自分で施設に入ったの。でもここでも迷惑をかけているわね。年を取ると何もできなくなって嫌になってくるわ」と両手を合わせ下を向いている。咲は胸がぎゅっと痛くなった。「迷惑なんて思っていないですよ」庭に出ると、思った以上に青空が広がり、心地よい風が吹いていた。
文子が「気持ちいいですね」と咲に話す。
咲は、「本当ですね。深呼吸したくなります。」と両手を広げた。それを見て文子も両手を広げ深呼吸した。咲は「お庭周りましょうか」と文子に話すと、文子は「そうですね。お願いします」と咲に頭を下げる。
「はい」と笑顔で返事をして車椅子を押す。
庭にはコスモスやダリアなどの秋の花が並んでいる。
咲はゆっくりと歩きながら車椅子を押す。
景色と、風を感じて、2人は何も話さず進んでいく。
半周ほどまわったところで、咲が話す。
「お茶でも飲みましょうか」咲は持っていた鞄からお茶と、紙コップを取り出し、文子に見せる。
「そうですね。少し休憩しましょう」と文子が笑う。
咲はコップにお茶を入れ、文子へ渡す。
「お花見みたいですね」と咲が言うと、
文子は「ほんとうね。お花見なんていつ以来かしら」と、少し寂しげな顔を見せる文子。
それに咲が気づく。
わざとらしく満面な笑みで文子の顔を覗く。
「お花見になにか思い出があるんですか」と咲が聞くと、文子は少し笑って、「そうね」と話す。
それから、文子は家族で花見に行って楽しかったことや面白くて笑ったこと、子供が大きくなって一緒に行けなくなったことや、自分の足が悪くなってお花を見に行くこともできなくなったことなどを話した。
< 1 / 2 >