愛憎路

第一話 それぞれの路



 私は今、折角の休みだけど電車に揺られて高校に向かっている。

季節は秋、夏は電車の窓に乗客の熱気の湯気が張り付いて気持ち悪いから、通学の心持ち的にベストな季節ナンバー2だ。

私は大勢の人間の体温で支配される車両という小さな箱が嫌いだ。だからどうしても無理な時は大人しく駅のホームからターンして、自然豊かな公園へ埋没する日もある。

みなまで言う必要も無いが、所謂社会不適合者みたいな物だ。

そんな私がわざわざ学校へ行く理由、それは中高一貫の私の学校で、中学の頃から好きだったあの男の子に告白するため。

その為に彼の部活が終わる時間に学校へ着くようにわざわざ合わせて来たし、ラブレターも書いた。昔から物語や詩を書くのが好きだった事が、まさかこんな形で繋がるとは思わなかった。

自分の言葉で何かを伝えるのは苦手だけど、文章はそんな自分を何倍も誇張して表せられる。例えそれで嘘の私が相手に伝わっても、彼の心に私が残るのは変わりない。

電車は高校の最寄駅、波ヶ丘駅に止まり箱から降りる。

準備は万端、自信は上々、空は暁が赤々と。

どうしても私はこの想いを伝えたいんだ。中学2年から高校2年まで温め続けた想いを。

と、その前に駅沿いにある縁結びの神社にだけ寄って行こう。

手紙を掴みながら、小走りで境内へ赴く私の後ろを激しい強風が後押ししてくれた。





○○○

 俺は今、乗った事も無いローカル線の電車に揺られ、別居中の嫁の家へ向かっている。

俺達は細かな軋轢が続いた末、道を違う事となってしまった。そのきっかけがいつだったか、もう覚えていない。でも確か、「あなたの想いは重い」とか嫁に言われたような気がする。今振り返ると何だがダジャレの様で、面白くなり少し笑ってしまった。

・・・ 多分、こういう所が嫌われていたんだろう。

でも、愛が重くて何が悪いのか。殺したいほど愛している、なんて文言があるが俺はその気持ちが分からなくもない。ただ、全てが好きで所有したいだけなんだから。

今日、家に向かっている理由は嫁、栄子の誕生日だから。こっそり家に入ってサプライズする算段だ。

そうでもしなければ門前払いで終わりだろう。そうして、もう一回元の家族をやり直すんだ。

誕生日用の花束とケーキ、切る為の包丁、パーティグッズを荷物に入れて栄子の家のある駅、波ヶ丘駅を降りた。



折角なので、駅に置いてあったガイドブックを読みながら観光しつつ駅沿いを歩いていると、近くに縁結びで有名らしい神社を発見した。

ゲン担ぎがてら、少し寄っていこうと境内へ駆ける。

すると突如真横に突き抜ける強風が吹き、目の前の女子高生が後ろ手に持っていた紙が目の前に落ちてきた。

「あの」

と呼びかけるも彼女は早足で社への階段を上がっていく。俺は渡すのも兼ねて階段を登る中、こっそりと紙を見る。

俺が拾って今から持ち主に返すんだから、まあ拾った人特権だよな?

どうやら手紙の様で、表に「陽介くんへ」と書いており、裏に「湊裕子より」と書いていた。これは、ラブレターではないだろうか。ご丁寧に手紙の封にハートなんか付けちゃって、中々青くて素晴らしい。

こういう物を見ていると、純粋に好きな相手に想いを伝えられた学生時代の事を思い出す。大人になってくると、やはり表向きに色々と取り繕わなければならなくなってしまう。あの頃は幸せだった。この子にも早く幸せになって貰う為、俺は更に二段飛ばしで段差を上った。





○○○

 頂上につくと、ごく一般的な拝殿が私を出迎えた。長い階段の割には大した本殿では無いが、そんな事は良くて、大事なのは縁結びだ。

と、ふと手に持っていた手紙が無い事に気付いた。

しまった、必死過ぎて見落としていた。どこかで落としちゃったか? 今の私はどんな顔をしているのだろう。みんな手紙なんて使わず全部自分で、言葉で告白してるっていうのに、私は。

仕方無く階段を降りていくと、前からオーバーオールを着た男性が歩いてきた。そうして私を見ると、

「湊裕子さん?」

と尋ねる。

「落ちてました、頑張って下さいね」

彼はそう言い私に手紙を返した。が、がんばっ頑張ってくださいねだって?顔がどんどん火照っていった。

「君みたいに今日は俺も伝えなければいけない事がある」

「そうですかぁ」

何だか心が抜けてしまった。

じゃあ、この人も告白するのかな?そのお参りに来たのかな?

「お祈りしましょう、折角ですし」

と彼が言い、一緒に拝殿まで行き、鈴を鳴らし手を合わせた。

あっさりとした祈りが終わる。彼は私に軽く会釈し、来た道を帰っていく。

「あの、お名前なんですか?」

何だか応援したくなり、私は彼の名前を聞く。

「東条霧矢です」

「霧矢さん、頑張って下さい」

そう言うと、彼は軽く手を振り消えていった。

さて、私もそろそろ行かないと。

そう決意し足を踏み出すと、突如光が体全体を包みはじめた。
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