愛憎路
第三話 夢幻
「お帰りなさい」
・・・と、思っていた時期が私にもあった。彼の呑気な声に、少し苛立ちを覚える。
「何とかする気ありますか」
「ありますよ。君が降りてる間に別の道から2回程」
2回。横を見ると、彼の側の地蔵が2体増えていた。
もしかしたら、戻される毎に増えているのかもしれない。
「俺ら、縁結びの神様のご機嫌損ねちゃったんですかねえ」
「普通逆なのに・・・」
「じゃ、ここに戻ってくる度にお互いの恋愛事情のお話しでも?人のふり見て我がふり直せって言いますし。暇つぶしにもなる。そうしている内に策は見つかるでしょう」
まあ、そもそもの原因が不明な以上時間も経たないし、地道に抜ける方法を編むしか無い。
○○○
じゃあ、まずはどこの地点で戻るかを見つけよう。
前に戻ったのは神社の鳥居を抜けたちょうどその瞬間。その場所その土を踏まなければ抜けられる、という可能性も無きにしもあらずだ。
無かった。
「陽介君とはいつから知り合ったんですか?」
「中学2年からです。4年くらい、好きです」
次。霧矢さんが戻った。
「お嫁さんとは何で別居しちゃったんですか」
「愛が重いんだってさ」
次の択を実行する。神社の正規の入口以外から出よう。生け垣から体をよじり学生が横行する道へ転がり落ちる。
戻って来た。
「高校生の恋愛って当事者からすればどんな感じですか」
「好きな人がいると色々大変ですよ。でも、近くにいるだけで嬉しいです」
「そういうもんですかね」
再び霧矢さんの帰還。
「昔付き合ってた人とかいますか」
「何人かいたんだけど」
「えっ」
その手の生々しい話題は嫌いなので辞めておく事にした。
地蔵を蹴り壊し洞窟から出る。戻ってきた。恐らく地蔵自体に意味はなく、悪趣味なカウントダウンの様な物だろう。
「湊さんは何部に入ってるんですか?」
「それ関係なくないですか?」
「いや、なきにしもあらずです」
「茶道部です」
「千利休を越える意思はありますか?」
「ありません」
霧矢さんがまた帰ってきた。
「愛が重いのって、霧矢さんはどう思いますか」
「俺はいいと思うんですけどね」
「私もそうなんですけどね」
「でも、以外とそういう人の方が嫌がられるんですよね、俺もそうでしたし」
「そういうの、私ちょっと可哀想だと思うんです。だってそれっていい事なのに」
「まあ、世の中ってよく分からないですよね」
次の方法。もう一回拝殿でお祈りしてから退出する。
無駄だった。
「湊さん、人間の恋愛って何だかいいですね」
「何ですか、宇宙人みたいな事言っちゃって」
「でも、難しい問題ですよね」
お互い想い人がどんな人かは触れない。その感覚が少し心地よかった。
学校ではどんな人が好きか、という情報から誰が好きか炙り出されてしまう。それならば、胸にしまって誰にも話さない方がマシだったんだ。
だからこの探りの無い今の純粋な恋バナは、悪くはない。
だが、流石にそろそろ終わりにしたいと思う瞬間が何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も訪れた。
私達の口数は、回を経る毎に段々と、段々と少なくなっていった。
・・・と、思っていた時期が私にもあった。彼の呑気な声に、少し苛立ちを覚える。
「何とかする気ありますか」
「ありますよ。君が降りてる間に別の道から2回程」
2回。横を見ると、彼の側の地蔵が2体増えていた。
もしかしたら、戻される毎に増えているのかもしれない。
「俺ら、縁結びの神様のご機嫌損ねちゃったんですかねえ」
「普通逆なのに・・・」
「じゃ、ここに戻ってくる度にお互いの恋愛事情のお話しでも?人のふり見て我がふり直せって言いますし。暇つぶしにもなる。そうしている内に策は見つかるでしょう」
まあ、そもそもの原因が不明な以上時間も経たないし、地道に抜ける方法を編むしか無い。
○○○
じゃあ、まずはどこの地点で戻るかを見つけよう。
前に戻ったのは神社の鳥居を抜けたちょうどその瞬間。その場所その土を踏まなければ抜けられる、という可能性も無きにしもあらずだ。
無かった。
「陽介君とはいつから知り合ったんですか?」
「中学2年からです。4年くらい、好きです」
次。霧矢さんが戻った。
「お嫁さんとは何で別居しちゃったんですか」
「愛が重いんだってさ」
次の択を実行する。神社の正規の入口以外から出よう。生け垣から体をよじり学生が横行する道へ転がり落ちる。
戻って来た。
「高校生の恋愛って当事者からすればどんな感じですか」
「好きな人がいると色々大変ですよ。でも、近くにいるだけで嬉しいです」
「そういうもんですかね」
再び霧矢さんの帰還。
「昔付き合ってた人とかいますか」
「何人かいたんだけど」
「えっ」
その手の生々しい話題は嫌いなので辞めておく事にした。
地蔵を蹴り壊し洞窟から出る。戻ってきた。恐らく地蔵自体に意味はなく、悪趣味なカウントダウンの様な物だろう。
「湊さんは何部に入ってるんですか?」
「それ関係なくないですか?」
「いや、なきにしもあらずです」
「茶道部です」
「千利休を越える意思はありますか?」
「ありません」
霧矢さんがまた帰ってきた。
「愛が重いのって、霧矢さんはどう思いますか」
「俺はいいと思うんですけどね」
「私もそうなんですけどね」
「でも、以外とそういう人の方が嫌がられるんですよね、俺もそうでしたし」
「そういうの、私ちょっと可哀想だと思うんです。だってそれっていい事なのに」
「まあ、世の中ってよく分からないですよね」
次の方法。もう一回拝殿でお祈りしてから退出する。
無駄だった。
「湊さん、人間の恋愛って何だかいいですね」
「何ですか、宇宙人みたいな事言っちゃって」
「でも、難しい問題ですよね」
お互い想い人がどんな人かは触れない。その感覚が少し心地よかった。
学校ではどんな人が好きか、という情報から誰が好きか炙り出されてしまう。それならば、胸にしまって誰にも話さない方がマシだったんだ。
だからこの探りの無い今の純粋な恋バナは、悪くはない。
だが、流石にそろそろ終わりにしたいと思う瞬間が何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も訪れた。
私達の口数は、回を経る毎に段々と、段々と少なくなっていった。