愛憎路
第四話 本音
そうして、何回たっただろうか。いい加減疲弊してきた。顔に嫌な脂汗が滲んでいる。
「じゃあ、何で湊さんはこんなに必死になって告白しに行くんですか」
行かなければ。行かなければ。行かなければ行かなければ。
次の方法を用意しなければ。早く会わないといけない。
「早くしないと全部アイツに、アイツに取られるから・・・!」
「あいつ?」
そうして私は駆け出していた。思わず本音が出てしまっていた。
次はこの洞窟の位置する山の中腹辺りから飛び降りるぐらいしか策は無い。
幸い、そんなに高くないし、骨を折ってでも私は抜け出すんだ。
失敗した。落ちる途中に転送された。
ちっ、と霧矢さんの舌打ちの音が聞こえる。
いい加減、あちらも失敗を繰り返し余裕が無くなってきたのだろう。地蔵はもう何個だろう、お互いに40個くらいある。
「霧矢さんは、何でそんなに必死なんですか」
さっきの質問を返してみる。
「早く、早く栄子を手に入れたいからだよ・・・ 駄目ですよね、こんな事言ったら」
「手に入れたい?」
「全部手に入れたいんです、全部の部位を。体も心も何もかも。それが俺の、人への愛し方なんです」
さっきから、私の足は勝手に動き始めている。
彼の答えも意に介さず、まるで蘇った屍の如く先を求めて行進を続けている。
また失敗した。今回は単純に、道から滑り落ちてしまった。
「あいつって、誰ですか」
そう、あの時みたいにこんな風に本音から言質を取られていく。
だから自分の気持ちを表すのは苦手で、嫌いなんだ。もう逃げ道は無い。私も少し疲れてしまって、土の上に座り込む。
「私が告白する子、彼女がいる男の子なんです」
そう、私の中は何とも邪な心で埋め尽くされている。
でも、でもそれは。
「私の方が先に好きだったのに、二ヶ月くらいで、あっさりかっさらわれちゃったんだ」
自身を出すのが苦手な自分にかまけて、一生自分の中で想いを溜め込んで、そんな先延ばしが招いた末路。だったら、彼が全部彼女に染まってしまうのを阻止する。
「私がずっと想いを吐けなかったから、今は想いだけでも伝えたい。本当はこんなに好きな私の事を、ただ少しでも意識させたいだけなんです。ほんの僅かでも刻みつけたい。悲しいです、じゃなかったら私ほんと・・・」
疲れと怒りと諦めから、顔はあらゆる液体で濡れていた。
でも、あれ?
久しぶりに、自分をちゃんと言えた?
「もう湊さんは自分を出せてますよ。これもまた、告白の一つ」
霧矢さんがうんうん、と言わんばかりに頷き、私をどこか敬愛を込めた様な目で見つめていた。
「そして気付きました。俺の恋は歪んでいる、と。君のおかげだよ」
「何ですかそれ、私言ったんだから霧矢さんも言うべきです。恋はどんな形でも恋だと思います。私は、世間的に見ればちょっとアレですが」
自分で言った言葉に少しすねながら地から立ち上がり、彼の横顔を後ろから覗き込んでみると、それは驚く程の虚無だった。
そうして、彼は次の言葉を紡ぐ。
「じゃあ、もう少しだけやりますか?やらなければならないんでしょう、俺達は」
彼に何があったか、私はまだ分からない。でも、何かの覚悟のような物を感じた。
「はい」
そして再び、暁の空に向かって私は走っていった。
「じゃあ、何で湊さんはこんなに必死になって告白しに行くんですか」
行かなければ。行かなければ。行かなければ行かなければ。
次の方法を用意しなければ。早く会わないといけない。
「早くしないと全部アイツに、アイツに取られるから・・・!」
「あいつ?」
そうして私は駆け出していた。思わず本音が出てしまっていた。
次はこの洞窟の位置する山の中腹辺りから飛び降りるぐらいしか策は無い。
幸い、そんなに高くないし、骨を折ってでも私は抜け出すんだ。
失敗した。落ちる途中に転送された。
ちっ、と霧矢さんの舌打ちの音が聞こえる。
いい加減、あちらも失敗を繰り返し余裕が無くなってきたのだろう。地蔵はもう何個だろう、お互いに40個くらいある。
「霧矢さんは、何でそんなに必死なんですか」
さっきの質問を返してみる。
「早く、早く栄子を手に入れたいからだよ・・・ 駄目ですよね、こんな事言ったら」
「手に入れたい?」
「全部手に入れたいんです、全部の部位を。体も心も何もかも。それが俺の、人への愛し方なんです」
さっきから、私の足は勝手に動き始めている。
彼の答えも意に介さず、まるで蘇った屍の如く先を求めて行進を続けている。
また失敗した。今回は単純に、道から滑り落ちてしまった。
「あいつって、誰ですか」
そう、あの時みたいにこんな風に本音から言質を取られていく。
だから自分の気持ちを表すのは苦手で、嫌いなんだ。もう逃げ道は無い。私も少し疲れてしまって、土の上に座り込む。
「私が告白する子、彼女がいる男の子なんです」
そう、私の中は何とも邪な心で埋め尽くされている。
でも、でもそれは。
「私の方が先に好きだったのに、二ヶ月くらいで、あっさりかっさらわれちゃったんだ」
自身を出すのが苦手な自分にかまけて、一生自分の中で想いを溜め込んで、そんな先延ばしが招いた末路。だったら、彼が全部彼女に染まってしまうのを阻止する。
「私がずっと想いを吐けなかったから、今は想いだけでも伝えたい。本当はこんなに好きな私の事を、ただ少しでも意識させたいだけなんです。ほんの僅かでも刻みつけたい。悲しいです、じゃなかったら私ほんと・・・」
疲れと怒りと諦めから、顔はあらゆる液体で濡れていた。
でも、あれ?
久しぶりに、自分をちゃんと言えた?
「もう湊さんは自分を出せてますよ。これもまた、告白の一つ」
霧矢さんがうんうん、と言わんばかりに頷き、私をどこか敬愛を込めた様な目で見つめていた。
「そして気付きました。俺の恋は歪んでいる、と。君のおかげだよ」
「何ですかそれ、私言ったんだから霧矢さんも言うべきです。恋はどんな形でも恋だと思います。私は、世間的に見ればちょっとアレですが」
自分で言った言葉に少しすねながら地から立ち上がり、彼の横顔を後ろから覗き込んでみると、それは驚く程の虚無だった。
そうして、彼は次の言葉を紡ぐ。
「じゃあ、もう少しだけやりますか?やらなければならないんでしょう、俺達は」
彼に何があったか、私はまだ分からない。でも、何かの覚悟のような物を感じた。
「はい」
そして再び、暁の空に向かって私は走っていった。