愛憎路
第五話 行く末は
一体それから、どれだけの回数が経っただろう。
かれこれ一ヶ月、はないか。一週間ぐらいここにいる気がする。気がするだけだ。
もう左右、そして洞窟を半ば塞ぐ程の数の地蔵が打ち立てられている。というかもう地蔵をよじ登らないと出られなくなっている。
「湊さん、多分そろそろここからすらも出られなくなります。 ・・・このループも残りは後1,2回程だけかと。俺、多分ですけど気付いたんです。ずっと見落としてた解決策」
ずっと、見落としていた物?
「それは?」
「まあ、行きましょう。最後まで進まないと」
○○○
そうして山道を下り、本殿へと戻っていく。そういえば、二人で降りたのは何気に今回が初めてだ。
すると、霧矢さんが自分語りを始めた。
「俺、前に言ったでしょう。妻の全てが欲しいって。実はこれまでも、そういう事が色々あった。これまで付き合った子はみんな自分から逃げていったか、俺が殺しました。欲しかったんです。それぐらい、好きだった。
俺にとっての愛し方って、他の人には恐ろしいだけなんでしょう。湊さん、その子の近くにいるだけで幸せ、と言ってたじゃないですか。それが俺には一切理解できなかった。本当に理解できなかった。それだけでは飽きたらない。相手の全てを所有したい、殺したい程愛してるんです」
そういえば恋愛事情を色々聞かれたのは、もしかして普通の恋がどんなものかを探ろうとしていたのかもしれない。
人であるのに人を知ろうとしている。
自分が誤解され、拒絶される世界を何とか変えようとした。そう考えると、少しやるせない。
「そんな、恐ろしいって」
でも私には僅かばかりのフォローしかできない。
私は知っている、恋が行き過ぎると私のように形容しがたい様々な「欲」に駆られるから。
「だから俺は人に恋してはいけなかった。こんな人間を受け入れるヤツなんてそれこそいない」
彼の事が明らかになったと同時に、山道から参道へ差し掛かり始めた。
「で、それを踏まえて、です。もしかしたら、俺達の好きな人への想い、それ自体が戻ってしまう条件なのかもしれない。というかもうこれしか無い筈。俺達は、そもそも誰かに想いを伝えようしてここで会った」
・・・ 正直、それは薄々と感じていた所があった。私達はあらゆる手段で脱出を試みた。
物理的な脱出は散々思考した末おおよそ不可能と分かり、自分自身に戻ってしまう条件が課せられていると考え実行した回もあった。
でも、これだけは恐らく無意識に択から外していた。それが否定されれば。
「湊さん。想いを捨てる覚悟、ありますか。これは仮説です。ですがこれで失敗すれば俺達は今度こそ出られなくなる。俺は君と話して、栄子には幸せに生きてもらう事にしました。俺がいると、不幸だったんでしょう」
きっと、私達は神様からのバチが当たったのだろう。
かたや彼女のいる男の子を引っ掛けようとその彼女を否定する私、そして相手の全てを欲しがる欲を持つ霧矢さん。端から見ればどちらも歪んだ物だ。
恋は想い、想いは呪いに転ずる。
神社とは、そんな呪いを祓う場。結びの神は、そんな私達を隔離しようとした。
「私、間違ってたんですね」
「間違ってはいません。俺達は、ただ外れていただけですよ」
「じゃあ、」
「ああ、行きますか」
霧矢さんは、自分の鞄から大きな花束を取り出す。
「何ですかそれ」
「誕生日祝いだった物だ。俺達は、想いをここに捨て置く」
そう言い放ち、薔薇の花束を上空へ下から振りかぶって投げた。
鳥居の赤と薔薇の紅が奇跡的に噛み合い、少しの味わい深さを出していた。
・・・私も、覚悟しなければならない。
懐にしまっていた手紙を取り出す。 そうして、それを縦一文字に破く。
これは、自分自身への、自分の気持ちへの、先延ばしにし続けた罰。
私達は、再び歩を進め始めた。
かれこれ一ヶ月、はないか。一週間ぐらいここにいる気がする。気がするだけだ。
もう左右、そして洞窟を半ば塞ぐ程の数の地蔵が打ち立てられている。というかもう地蔵をよじ登らないと出られなくなっている。
「湊さん、多分そろそろここからすらも出られなくなります。 ・・・このループも残りは後1,2回程だけかと。俺、多分ですけど気付いたんです。ずっと見落としてた解決策」
ずっと、見落としていた物?
「それは?」
「まあ、行きましょう。最後まで進まないと」
○○○
そうして山道を下り、本殿へと戻っていく。そういえば、二人で降りたのは何気に今回が初めてだ。
すると、霧矢さんが自分語りを始めた。
「俺、前に言ったでしょう。妻の全てが欲しいって。実はこれまでも、そういう事が色々あった。これまで付き合った子はみんな自分から逃げていったか、俺が殺しました。欲しかったんです。それぐらい、好きだった。
俺にとっての愛し方って、他の人には恐ろしいだけなんでしょう。湊さん、その子の近くにいるだけで幸せ、と言ってたじゃないですか。それが俺には一切理解できなかった。本当に理解できなかった。それだけでは飽きたらない。相手の全てを所有したい、殺したい程愛してるんです」
そういえば恋愛事情を色々聞かれたのは、もしかして普通の恋がどんなものかを探ろうとしていたのかもしれない。
人であるのに人を知ろうとしている。
自分が誤解され、拒絶される世界を何とか変えようとした。そう考えると、少しやるせない。
「そんな、恐ろしいって」
でも私には僅かばかりのフォローしかできない。
私は知っている、恋が行き過ぎると私のように形容しがたい様々な「欲」に駆られるから。
「だから俺は人に恋してはいけなかった。こんな人間を受け入れるヤツなんてそれこそいない」
彼の事が明らかになったと同時に、山道から参道へ差し掛かり始めた。
「で、それを踏まえて、です。もしかしたら、俺達の好きな人への想い、それ自体が戻ってしまう条件なのかもしれない。というかもうこれしか無い筈。俺達は、そもそも誰かに想いを伝えようしてここで会った」
・・・ 正直、それは薄々と感じていた所があった。私達はあらゆる手段で脱出を試みた。
物理的な脱出は散々思考した末おおよそ不可能と分かり、自分自身に戻ってしまう条件が課せられていると考え実行した回もあった。
でも、これだけは恐らく無意識に択から外していた。それが否定されれば。
「湊さん。想いを捨てる覚悟、ありますか。これは仮説です。ですがこれで失敗すれば俺達は今度こそ出られなくなる。俺は君と話して、栄子には幸せに生きてもらう事にしました。俺がいると、不幸だったんでしょう」
きっと、私達は神様からのバチが当たったのだろう。
かたや彼女のいる男の子を引っ掛けようとその彼女を否定する私、そして相手の全てを欲しがる欲を持つ霧矢さん。端から見ればどちらも歪んだ物だ。
恋は想い、想いは呪いに転ずる。
神社とは、そんな呪いを祓う場。結びの神は、そんな私達を隔離しようとした。
「私、間違ってたんですね」
「間違ってはいません。俺達は、ただ外れていただけですよ」
「じゃあ、」
「ああ、行きますか」
霧矢さんは、自分の鞄から大きな花束を取り出す。
「何ですかそれ」
「誕生日祝いだった物だ。俺達は、想いをここに捨て置く」
そう言い放ち、薔薇の花束を上空へ下から振りかぶって投げた。
鳥居の赤と薔薇の紅が奇跡的に噛み合い、少しの味わい深さを出していた。
・・・私も、覚悟しなければならない。
懐にしまっていた手紙を取り出す。 そうして、それを縦一文字に破く。
これは、自分自身への、自分の気持ちへの、先延ばしにし続けた罰。
私達は、再び歩を進め始めた。