愛憎路

第七話 思い出にさよならを

カモメがさざめき波が靡く海を崖上から見つめ、俺は鞄にひっそりと一輪だけ残った薔薇を手に持っていた。

結局、あの後栄子とは話せなかった。湊さんが行った後、不思議そうにこちらを一瞥して去っていった。

誕生日会用の荷物を開ける。あの後、突如光に包まれ選択肢を間違ったと思ったが自室に戻っていた。相手に認識されていなければ神様的にはセーフだったんだろう。

あそこの縁結びの神は全く悪趣味だ。

「ケーキ、ぐっちゃぐちゃになってる・・・ 」

その匂いを嗅ぎつけたのか、鳶が少しずつよってたかる。

俺は、誰かの事を愛するのに不向きだったのだろう。

まあ一般的に考えれば、所有とは物扱いの様な物だ。俺にこの花で妻を祝う資格なんて無い。

一輪の薔薇を、海の方へ高く投げる。

深紅の彩りが碧の空を舞い、然しそれは無情にも重力に逆らえず群青の海へ落ちる。

「一本だけだと、寂しいな」

それを見届けた後、ケーキは放置し俺はバイクに跨り海を後にした。


○○○

 正面から豪速球で当たってくる風から目を逸らすと、道路下には港町が広がっていた。

港、で思い出した。湊さんはあれからいい感じにやっているだろうか。

彼女は俺と違ってまだまだ何とかなる人間だし、自分を出せるようにもなっていた。あんなに重い愛情をこれから向けられるかもしれない誰かが少し羨ましく感じる。

というか、港と湊さんってダジャレ繋がりで思い出したのか。つまらないジョークだが、少し笑ってしまった。

バイクのアクセルを更に吹かす。風が気持ちよくなってきた。

海に行ったから、次は山にでも行ってみようか。各地を旅して、俺の中にまともな感性をこれから詰めていこう。まずは、寒いダジャレ芸を思いつくのを辞める事だ。

そうしていつか妻の事を、忘れられたらいいな。
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