第二作★血文字の囁き★
 ④ 第三部 ― 真相への糸口

 相沢は、旧い役場の倉庫に眠っていた当時の捜査資料を見つけた。
 埃をかぶった段ボール箱の中から出てきたのは、神谷家の失踪に関する供述調書。
 そこには、ある重大な食い違いが記録されていた。

 ――事件当夜、神谷家を訪ねた者が二人いた。

 ひとりは近隣の農家の男。もうひとりは、元駐在の高梨。
 しかしその後の報告書では、高梨の名だけが不自然に削られていた。

 さらに、神谷家の長女・綾の友人だった女性に話を聞くと、震える声でこう告白した。
 「綾ちゃん、よく言ってたの。“お父さんが全部隠すって”……あの子、なにか知ってたんだと思う」

 隠蔽。
 村の有力者たちが、神谷家の失踪を闇に葬った。
 だが、なぜ一家を消さなければならなかったのか、その理由まではまだ分からない。

 調べを進めるうち、相沢はある噂にたどり着いた。
 二十年前の夏祭りの夜、神谷家の敷地で火が上がり、子どもの悲鳴が聞こえた――しかし村人たちは皆、「そんなことはなかった」と口を揃える。

 事件は事故か、殺人か。
 そして、なぜ誰もが沈黙してきたのか。

 相沢は頭を抱えた。
 確かに隠蔽はあった。だがそれだけでは、壁に浮かび続ける血文字を説明できない。

 その夜、廃屋に足を踏み入れると、壁一面に新たな言葉が刻まれていた。
 「ほんとうのはんにんは まだいる」

 心臓が跳ねた。
 ――まだいる? それは、村の中に? それとも……自分の周りに?

 誰が血文字を書いているのか。
 人の手か、怨霊の仕業か。
 真相に近づいたはずなのに、闇はさらに深まっていくばかりだった。
< 5 / 12 >

この作品をシェア

pagetop