第二作★血文字の囁き★

 ⑤ 終幕 ― 告白の意味

 警察の再調査によって、二十年前の事件の一端が明らかになった。
 神谷家の失踪は村ぐるみの隠蔽であり、元駐在・高梨らが関与していた可能性が高い。
 しかし、動機も経緯も、すでに関係者の多くが死んでしまった今では全貌を掴むことはできない。
 結局、裁きは果たされないまま、村には安堵とも諦めともつかぬ沈黙が広がった。

 記事をまとめ終えた相沢は、どこか落ち着かない気持ちで東京の自宅へと戻った。
 これで取材は終わったはずだ。
 けれど――胸の奥には、ひとつの疑問が消えずに残っていた。

 血文字はいったい誰が書いたのか。

 廃屋に残されたあの言葉たち。
 「ゆるして」「ごめんなさい」「ほんとうのはんにんは」――。
 それらは過去の犠牲者の声だったのか。
 それとも加害者の心に巣食った罪の叫びだったのか。

 真実は闇の中に置き去りにされたままだった。

 その夜、原稿を机に置いた相沢はふと気づいた。
 リビングの壁に、赤黒い何かがにじんでいる。
 慌てて近づくと、それは指でなぞったような生々しい跡だった。

 「しってる」

 喉がひゅっと鳴り、背筋が凍った。
 なぜ、ここに。誰が――。

 窓の外から、子どもの笑い声のようなものがかすかに聞こえた。
 目を凝らすと、闇の中に小さな影が立っていた。
 次の瞬間、影は霧のように消え、ただ夜風だけが残った。

 相沢はしばらく壁を見つめ続けた。
 事件は終わった。だが、残響はまだ続いている。
 血文字は、過去から未来へと、告白をやめようとはしないのだ。
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