クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「な……っ!」

 彼の口から紡がれた言葉に、つい胸が跳ね頬が熱くなる。脳裏に智田SVの顔が浮かんでしまったのだ。

「その顔は、失恋はしてなさそうですね」

 彼はほっとしたような顔でそう言った。

「由亜が気にしてたんですよ。『進展も聞かないし、どうなったんだろう、失恋してたら私が話聞いてあげる番だ』『でも勘違いだったら失礼だし、どうしよう』って」

 なるほど、彼はどこまでも彼女に優しいらしい。そして真霜も、大概私に優しい。だからこそ、目をかけたくなるのだけれど。

「そうね、失恋はしてない……」

 言いながら、恥ずかしくなる。誰かと自分の話をするのは、落ち着かない。
 だが、口にしてからはっとした。

『俺は恋愛に興味はない』

 バーベキューの時に、彼がそう言っていたのを思い出したのだ。

 智田SVは恋に興味がない。その言葉に胸が痛んで、でもこの気持ちは〝推し〟へのそれだから、恋と勘違いしてはダメだと何度も言い聞かせていた。

(でもあんなにかっこいい姿見たら、好きだって思っちゃうよ)

 私のために、仙台まで走って行ってくれた。そんな彼に感じた、上司への憧れや〝推し〟以上の気持ち。それを恋心だとはっきりと自覚してしまったが、この恋は最初から叶わない。

 複雑な気持ちが押し寄せてきたその時、結木くんがぱっと顔に花を咲かせた。

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