クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「久しぶりだな、茉寛。彼女さんも、こんばんは」

 店主さんはカウンターの中からそう言って、私たちをカウンター席へどうぞと手で促す。

(か、彼女さん……)

 そう呼ばれたのは初めてで、なんだか恥ずかしい。だが私がそわそわしている間に、智田SVはなんでもない顔をして、店主さんから一番遠いテーブル席へ向かってしまった。

 互いにクラフトビールを注文し、軽く料理も注文する。私たちのテーブルには、すぐにビールとたこわさが運ばれてきた。

「遅くなったが、売場改変お疲れ様。乾杯」

 智田SVがそう言って、グラスを掲げた。私もグラスを掲げてから、ビールをひと口いただく。

「メールでも伝えたが、本部の評価も上々だ。子連れでも気兼ねなく入れると、子育て世代からの満足度が高い。狙い通りだな」
「はい、ありがとうございます」

 智田SVに褒めてもらうのは、嬉しいしくすぐったい。だけど、一抹の寂しさが胸を過った。

(するのはやっぱり、仕事の話なんだ)

 だが、目の前の彼がふっと表情を和らげる。初めて見る彼のその表情に思わず胸が高鳴ってしまい、落ち着けと自分に言い聞かせた。

 恋人だからと意識しているのは、きっと私だけ。恋人らしい話をしたい気持ちはあるけれど、そう思ってばかりでは虚しくなるだけだ。
 だから私もできるだけ、いつも通りでいようと思う。

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