クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「なあ、不動店長」

 思わず肩が跳ねてしまったが、なんでもないふりをして顔を上げる。智田SVは先ほどとは異なり真剣な顔で、こちらを見ていた。

「里咲、と呼んだ方がよいのだろうか?」

 彼の言葉に、つい体が固まってしまった。胸を打ち付ける心臓の音が、やたらと耳元で響く。

(名前で呼ばれただけなのに。なに、これ……)

 友人や家族に呼ばれるのとは違う、特別な響き。一瞬なにも考えられなくなるほど、強い刺激だ。
 だが、智田SVは私が動かないのを別の意味に受け取ってしまったらしい。彼は続けて言った。

「先ほど晃大に指摘されてから、実はずっと考えていた。俺たちは確かに、店長とSVという関係だ。だが、プライベートでもそう呼び合うのは違う気がするし、不動店長が寂しいならそう呼んだほうがいいと思ったんだ。不快だったら申し訳ない」

 彼は言いながら、眉尻をわずかに下げる。

「まさか、不快だなんて思っていません」

 私は慌てて口を開いた。

「むしろ嬉しくて、うまく反応できなかったんです」

 強く反論したかったのに、徐々に恥ずかしくなってしまう。語尾が小さくなってしまったが、彼は私の言葉に目をまたたかせ、そっと口角を和らげた。

「良かった。ではこれからは、プライベートでは名前で呼ばせてもらう」

 智田SVはそう言い終わると、再び前を向き黙ってしまう。

< 160 / 206 >

この作品をシェア

pagetop