クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「店長、おはようございます。なに見てるんですか?」

 真霜だ。彼女は言いながら、私の手元を覗いてくる。
 私は慌てて背筋を伸ばし、彼女に印刷した〝通達〟を手渡した。

「おはよう。これ、全員に周知して欲しいって本部から。真霜さんも、朝礼するタイミングあったら皆に伝えてくれる?」

 言いながら彼女を見ると、彼女は既にそれを読み目を輝かせていた。

「すごいじゃないですか、店長。めっちゃ褒められてる! やっぱり店長はすごい店長なんですね、尊敬です~」

 きらきらした瞳でこちらを向く真霜に笑みを返したが、胸の内は複雑だ。

 店長として、真霜をはじめとしたスタッフの皆をまとめ、店舗をよりよく導いてゆく。売場改変時はそれを強く意識していたからか、この店の店長だということに今は愛着も沸いている。店長として、このモデル店舗の行く末を見届けるのも私の仕事だと思う。
 だったらこのまま、この店の店長を続ければいい。そう、頭では分かっているけれど――。

(本部に行きたいって気持ちは、ずっと前からあったもの)

 本部へ行きたい。でも、店長でもいたい。

 どっちつかずなもやっとした気持ちを抱えたまま、私は店長としての仮面を張り付ける。

「ありがとう」

 そう言ったが、真霜のきらきらした視線が胸に刺さるようだった。

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