クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない

 仕事終わり、智田はSOUTH RIVERを訪れた。真っ直ぐに帰ったらあの苦い記憶を夢に見て、余計に凹んでしまいそうな気がしたのだ。

 カウンター席に座り、お気に入りのクラフトビールを傾ける。お通し代わりに出されたたこわさを見て、智田は先週彼女とここでグラスを傾け合った日を思い出した。

 あの日、智田はフラれてしまうのが怖くて、なるべくいつものように平静でいようと心がけた。茅野が突っ込んできた時もあったが、その時なにかが既に彼女の気に障っていたのかもしれない。

 もとより、智田は恋に自信がない。そのうえ、里咲は誰に対しても気遣い屋で優しい。
 だからこそ〝相談〟という彼女の言葉が別のなにかではないかと勘繰ってしまう。

「このまま、フラれるのかもしれないな」

 智田は呟くように吐き捨てた。するとカウンターの向こうにいた茅野が、けらけらと笑った。

「おいおい、まだ付き合い始めて数週間だろ?」

 だが、智田は表情を変えられない。いつもなら茅野を睨めつけるところだが、今はそんな気持ちの余裕すらないのだと思い知った。
 智田はビールを呷り、ため息交じりにこぼす。

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