クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 目の前に座った彼を、思わずきょとんと見てしまう。だがすぐにメニューを渡され、彼の顔は見えなくなってしまった。
 彼は淡々と注文をする。私はどうしていいか分からず、とにかく「彼と同じものを」と言ってその場をしのいだ。

 やっとふたりきりになる。思わず店内を見回すと、昼には少し遅い時間だからか、カップルが二、三組いるだけだ。
 だが、それを見て急に緊張がこみ上げてきた。

(恋人と、高級レストランで食事。私は相談だけだと思ってたけど、もしかして茉寛さんはデートのつもりだったのかも)

 意識してしまうと余計に体が硬直してしまう。こういうのは、慣れていない。

「こういうところは、苦手だったか?」

 なにも言わない私を見たからか、茉寛さんがそう言った。

「いえ、素敵だなって思います。ただ、ちょっとびっくりしたというか……」
「そうか、よかった」

 彼の言葉は優しい響きを内包していて、それだけで胸が高鳴ってしまう。そういえば、彼とデートらしいデートをするのは初めてだ。

(今は相談できる雰囲気じゃないけれど、きっとこの後別で時間を作ってくれてるんだよね。だったら、今は、デートを楽しもう)

 胸の内でそう思い、私はせっかくならこの景色もお料理も堪能しようと思い直す。

「見てください、観覧車があんなに小さい」

 窓の外を指差しそう言うと、茉寛さんは幸せそうに口角を綻ばせてくれた。

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