クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 個人経営のお店らしくこぢんまりとしているが、庭付きのテラス席などもあり、潮風が吹き抜ける湘南らしい見た目だ。駅前の繁華街とは少し離れているから、知る人ぞ知るお店なのかもしれない。

(智田SVって、こういうお店でお酒を飲むんだ)

 そう思いながら、扉を開ける彼に続く。奥にカウンター席、手前にはいくつかのテーブル席。天井から吊るされた照明が、黒っぽい木材で統一されたテーブルそれぞれを温かく照らしている。

 大人で落ち着いたスタイリッシュな店内の雰囲気が、智田SVのクールなイメージとリンクする。彼らしいお店だと思っていると、彼は慣れた様子で壁際のテーブル席へと私をいざなった。

「お酒は飲めるか? 無理にとは言わないが、ここはクラフトビールも種類が豊富で、スパークリングの日本酒も美味しい」

 彼は言いながら、私にメニュー表を手渡してくれる。

「智田SVはなにを飲まれますか?」
「俺はいつもクラフトビールだ。林檎の香りが豊かな、ドイツのものなのだが」
「では、私もそれを」
「なにかつまみたいよな。食べたいものはあるか?」

 仕事のあとの外食はもっぱらラーメンが多い私だが、ダイニングバーにラーメンがあるとは思えない。それに、こんなおしゃれな店に来ているのだから、おしゃれなものを食べたい。

「智田SVにお任せします。お詳しそうなので」
「分かった」

 彼は静かにそう言うと、店員を目くばせで呼び、慣れたように淡々と注文を済ませた。

< 26 / 206 >

この作品をシェア

pagetop