クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「え?」

 思わず、そう声がもれてしまった。すると彼は続けて言う。

「いつも俺に意見を言う時、君は淡々としている。スタッフに接する時や顧客に接する時は笑顔で素晴らしいが、まるで自分を作っているみたいだと思っていた」
「そうですかね? あまり意識はしていないんですけど」

 私は人に感情を見せるのが苦手だ。それがきっと、彼にはそういうふうに見えていたのだろう。

 私には、十歳年下の双子の妹弟がいる。両親が双子の面倒に奔走するのを間近で見てきたから、いつの間にか自分の感情を抑えて生きるのが当たり前になっていた。
 妹弟のことで手一杯の父と母に、私のことまで面倒をかけるのが嫌だったのだ。

 自分の感情を行動にのせることで、周りの雰囲気を壊したくない。自分の機嫌で人を振り回して、迷惑をかけるくらいなら我慢した方がいい。

 そう思って生きてきたからこそ、彼に売場改変の企画を出さないかと提案をされた時は心が踊るほど嬉しかった。だけど、そういう感情も表に出し、鬱陶しいと思われたらと思うと心を表に出せなかった。
 自分のことで喜んだり落ち込んだりするのを表に出すのが、本当に苦手なのだ。

 複雑な気持ちになり、苦笑いをこぼしながらビールに口を付けた。
 フルーティーな香りが鼻をくすぐる。ごくりと飲み込むと、胸の靄が少し晴れた気がした。

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