クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 というのも、彼女を今日茅野の店に誘うことができたのは、彼女の店舗に眼鏡を忘れるというドジだったからだ。

 今朝、智田は緊張しながらも不動の店舗に入り、彼女と売場を回った。
 いつも通り凛とした彼女に心惹かれ、平静を装いつつも『褒める、立てる、喜ばせる』を実践して少しは意識してもらおうと試みた。

 その後のミーティングまでは良かったのだが、彼女が売場に戻りひとりきりになった瞬間、気が抜けたのだと思う。一度伸びをし、彼女の出ていった扉を見て、動揺してしまった。扉の取手の横部分に、『引』と『段差あり。足元注意』の文字が書かれていたのだ。

 そのせいで、掛けようと机の上に置いていたブルーライトカットの眼鏡を掛け忘れ、そのまま店舗に置いてきてしまった。

 彼女から眼鏡を渡しに行くというメールを受け取った時は、まるで思春期の男子のように胸が跳ねた。
 善は急げと言われているようで、彼女を待つ間はタブレットを見るふりをしながら、どうやって彼女を誘おうか考え続けていた。

 だが、スマートにやって来たはずのSOUTH RIVERでも、彼女の唐突な『好きです』の言葉に動揺し、レモンを自分に飛ばすというドジをしてしまった。


 ――どうして、こうなってしまうのだろう。
 頭を抱えていると、不意にスマホが震えた。茅野からメッセージが届いている。

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