クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「どうしたんですか、不動店長」

 階段の上から島崎店長の声が聞こえ、私は顔を上げた。ついてこない私を不思議に思ったのか、ふたりは階段の上でこちらを振り返り立ち止まっている。

「店舗でなにかあったのか? 今から向かうなら、俺も一緒に――」
「いえ、プライベートのことなので」

 私は鳴り続ける母の着信を無視し、そのままポケットに放り込んだ。

「いいんですか? 今どき電話なんて、緊急事態かもしれないですよ?」

 島崎店長の言葉に、〝万が一〟が脳裏に浮かんでしまった。弟妹たちは下宿をしていて実家にいない。父母になにかあった時、一番に電話がくるのは私だろう。

(いや、そんなことあるはずない。きっといつもの――)

 でも、本当になにかあったなら? 私ももう三十近くなり、父と母は弟妹が大学を卒業したら余暇を楽しむと言っていた。ふたりとも、もうそういう歳なのだ。

「ありがとう、島崎店長。お待たせするのは悪いから、おふたりはどうぞお先に」

 私がそう言った瞬間、智田SVの目がぴくりと動いたような気がした。

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