クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「お疲れさまでした、不動店長」

 島崎店長がそう言うと、智田SVもいつもの顔で私に告げる。

「お先に失礼する。もしなにかあったら、いつでも連絡をくれて構わない」

 そう言うと、ふたりは私を残して改札口へと向かう。私はふたりに背を向け、まだ鳴り続けているスマホの通話ボタンをタップした。

「もしもし?」
『ああ、やっと出た。いつも出るまでに時間かかるから、なにかあったんじゃないかって心配するじゃない』

 いつも通りの母の声に、ほっと安堵の息をもらす。半分はうんざりのため息だけれど。

「ごめん、今日はちょっと予定があって」

 すると、母の声色が明るいものに変わる。

『もしかして、デート? ねえ、デートなの⁉』

 私は母の大きな声にスマホを耳から外し、思わず背後を振り返った。智田SVと島崎店長は、もう見えない。そのことに安堵し、私は階段を下りながら口を開いた。

「ごめん、違うの。今日は職場の懇親会。新しい店長と上司の歓迎会を兼ねて、バーベキューしてきたの」
『あら、仲良しな職場ね』

 母の声色が残念そうなものに変わる。それで、再びため息がこぼれそうになった。

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