クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 彼は軽く手を挙げ、こちらにやってくる。

「たまたま通りかかったんだが、その服装、いつもと違うな。なにかあるのか?」

 彼は言いながら、ホテルの入り口に目を向けた。そこにはご丁寧に〝婚活パーティー会場はこちら〟の文字が並んでいる。
 彼がここに来た目的は、私とは違うらしい。こちらに向き直った智田SVに、私は渋々口を開いた。

「ご察しの通りです。親に、結婚を急かされておりまして」

 思わず付け加えてしまった。自分の意志だけでここに来たと彼に思われたら嫌だと、咄嗟に口が動いたのだ。

 彼は恋愛に興味はない。だからこんなことを言ったところで、彼とどうこうなるとなんてありえないけれど。

「仕事以外でも、いろいろと頑張っているんだな」
「え……?」

 彼の口から淡々と紡がれた言葉に、私は戸惑ってしまった。まさか、こんなことを労われるなんて。
 だがすぐに母に告げられたことを思い出し、苦笑いがこぼれた。

「まあ、年齢も年齢ですから」
「年齢か。俺もあまり変わらないが」

 彼はそう言って、不思議そうな顔で私を見る。だからつい、こぼしてしまった。

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