クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「結婚、子育てと明確なビジョンがある。不動店長は、プライベートでも流石だな」

 目の前の彼は、言いながら口角をわずかに持ち上げる。そんな彼の笑みがとてもぎこちなく見えて、私は途端に申し訳なくなった。

「すみません、智田SVに将来のことを考えろって言いたかったわけじゃなくて」

 私は言いながら、俯いてしまう。
 智田SVは恋愛や結婚を考えていない。なのにこんなことを聞いてしまうなんて、失礼だったろう。

(だから、考えなしで発言しちゃいけないのに)

 思ったことをつい聞いてしまったのは、慣れない格好のせいだろうか。内心ため息をこぼしていると、智田SVが言った。

「いや、いいんだ。俺もきちんと考えなければならないと、思い知らされた」
「でも、人生とか未来って、〝こうじゃなきゃいけない〟って決めつけるものでないとも思うんです。私はああ言いましたが、智田SVは智田SVらしい人生を生きてくださいね」

 彼の生き方を否定したくはない。そんな思いで言ったのだが、彼はなぜか鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

(しまった、またなにか間違えたんだ)

 そう思うが、慌てて発言してしまったことを悔やんでももう遅い。

「失礼します」

 私は彼に一度ぺこりと頭を下げ、逃げるように背を向ける。

(私と彼の人生が交わるなら、それは今のこの〝上司と部下〟という関係だけだ)

 夢への一歩を掴ませてくれた、理想の上司。それだけで、私には十分だ。

 改めて、彼への気持ちを振り切る。
 新たな恋を探すため、私は意気込みとともに婚活パーティー会場であるホテルへ足を踏み入れた。

< 65 / 206 >

この作品をシェア

pagetop