クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「いらっしゃい。あれ、あなた……」

 彼はそこまで言うと、智田SVに目を向ける。

「すみません、えっと――」

 言いながら考えるのは慣れていない。思いもよらぬ状況に、どうしていいのか分からず混乱しているのもある。

(どうして智田SVが、ここで酔いつぶれてるの⁉)

 動揺する心を落ち着けるように、一度周囲を見回す。だが、店内に他に客はいない。
 店主は私が以前ここに来た時の彼の連れだと気づいているようだ。だとしたら、私の取るべき行動は――。

 思考を整理し、私は彼らのもとへ近づきながら口を開いた。

「智田がご迷惑をおかけしました。私が連れて帰りますので」
「え、あ、おお?」

 店主さんは混乱した視線を私に向ける。だがすぐに、にこっと微笑んだ。

「すみません、困っていたので助かります。タクシーを手配するので、どうぞこちらにおかけください」
「ありがとうございます」

 店主さんに促され、智田SVの隣の席に腰かける。間近で見ると、彼は酒のせいか頬をほんのりと赤く染め、なにかに魘されるように眉間に皺を寄せていた。

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