クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「すみません、彼とは今日は少し会って話をしただけなので、彼になにがあったかは分かりません」

 智田SVを心配しているのだろう言葉に、協力できない旨を返す。すると彼はくすりと笑って言った。

「案外、あなたが原因かもしれませんよ?」

 その言葉にどきりと胸が鳴ったのは、私が彼に結婚の話を振ってしまったからだ。
 あんなことを口走ってしまったから、彼は今後の人生について悩んでしまったのかもしれない。前向きに考えてくれたのならいいけれど、この酔い方を見るにきっと後ろ向きに捉えてしまったのだろう。

(あんなこと、言わなければよかった。ごめんなさい、智田SV)

 寝息を立てる彼を見ながら後悔していると、店の前にタクシーが着いたと店主さんが伝えてくれた。

 店主さんに手伝ってもらい、智田SVを起こしてタクシーまで運ぶ。寝ぼけているらしい彼はふにゃふにゃと歩きながらも、なんとかタクシーに乗ってくれた。

 彼の隣に乗り込むと、タクシーは夜道を走り出す。智田SVの家の場所は、先ほどの店主さんが教えてくれた。

 静かな空間。かすかに聞こえる車のエンジン音と、智田SVの寝息。
 こんなになるまで悩ませてしまった申し訳なさはあるけれど、私はドキドキしていた。

 隣で眠る彼は、私の肩に頭を預けている。いわゆる〝肩ズン〟をされているのだ。
 彼の癖のある柔らかな髪が、ふわふわしてくすぐったい。

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