クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「あの……」

『帰ります』と言う前に、タクシーは行ってしまった。
 智田SVを見ると、彼はジャケットを頭の上に広げていた。私まですっぽり覆うようにそれを掲げ、私を見下ろす。

「行くぞ」

 その声を合図に、彼は小走りを始める。慌ててついてゆくと、近くのマンションのエントランスの軒で立ち止まった。そんな彼は、なぜか満足そうな顔をしてこちらを見下ろしている。

(どうして、そんな顔……)

 見たこともない、自信ありげな満足顔。オレンジの外灯に照らされたその顔は、ほんのり濡れた髪も相まって、とてもかっこよく見える。

 新たな彼の顔。どうしようもなく胸が高鳴り、止まらなくなる。
 これ以上、胸を高鳴らせてはいけないのに。この気持ちを、勘違いしてはいけないのに。

 私は慌てて、口を開いた。

「あの、私、帰りますね。失礼しま――」
「傘、貸すよ。俺の部屋、三階なんだ。取りに行こう」

 智田SVは私の言葉を遮りそう言うと、強引に私の腰を抱きエントランスを入った。

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