クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 エレベーターを待ちながらも、彼はなぜか私の腰を抱いたままだった。
 最初こそ胸がはち切れんばかりの鼓動に気を取られていた私だったが、満足げな笑みを浮かべながら階数表示を見ている彼を見上げていると、徐々に思考が冷静になってゆく。

(まだ酔ってるのかな? きっとそうだよね。じゃないとこの距離、おかしいもの)

 エレベーターが到着し、その扉が開く。私はそこに乗り込みつつ、彼から離れようと思った。
 だが、彼の腕から離れることはできなかった。もう少しこのままでいたいという欲望が、脳裏をちらついたのだ。

 彼の腕から感じる体温が、いつもと違う強引さが、私の心をきゅっと締めつける。
 こんな状態の彼といられるのが私で良かったと、私以外だったら嫌だと、優越感と嫉妬が芽を出す。

 彼が素面に戻ってしまったら、こんなことはもう二度とないだろう。そんな思いが、私を酔わせてゆく。

(今だけ、もう少しだけ。彼の近くに、いさせてください)

 だが、エレベーターはすぐに三階に着いてしまう。彼の部屋の前に着き、腰にあった彼の温もりは離されてしまった。

 傘を渡されたら、今度こそお別れだ。一抹の寂しさを感じながら、鍵を開け部屋に入る彼に続く。
 すると、彼は突然私を振り返り、私に甘い顔で微笑んだ。

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