滾る恋情の檻

序章



今日も、誰かの腕に抱かれる。


だけど、心の奥は冷たいままで、満たされることはない。

 
「美子」

 
そう名前を呼ばれた声が耳に届く。

 
でも違う──この声じゃない。



私が求めているのは、あの人の声。


あの人の声、だけ。

 
誰かの笑顔や、手の温もりに触れるたび、胸の奥がざわつく。


 
誰かにどれだけ愛の言葉を囁かれても、

心は空っぽのまま。


 
けれど、

あの人だけは違う。

考えるだけで、心が熱くなる。


指先、唇、声、視線——すべてが恋焦がれる対象で、誰も代わりにはなれない。


どうして私は、こんなにも彼に囚われてしまったのだろう。


一目見たあの日から、唇に触れたあの瞬間から、
私の心は逃れられない檻に閉じ込められた。


誰と笑い、誰と話しても、胸の奥で想うのは――あの人だけ。
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