滾る恋情の檻
初恋
ガチャリ、と玄関のドアが開く音がした。
リビングで宿題を広げていた私は、つい顔を上げる。
「ただいまー……っと。おい、美子、いるかー?」
「いるけど」
乱暴な声は、二つ年上で、高校3年生の兄(拓也)のもの。
相変わらずのぶっきらぼうさに「はいはい」と返事をしながら、私は出迎えるために立ち上がった。
そのときだった。
兄の背後から、もう一人の人影が現れた。
「お邪魔します」
穏やかな声とともに姿を現したのは、背の高い男の人。
制服のブレザーをきちんと着こなし、整った顔立ちに涼やかな笑みを浮かべている。
柔らかくて、でもどこか大人びた雰囲気──けれど、兄と同じ三年生だと、すぐに分かった。
思わず息を呑む。
心臓が、胸の中で早鐘を打つ。
見た目も、声も、雰囲気も……全部が私の好みすぎた。
「遥、紹介しとくわ。こいつ、俺の妹。高一の美子」
「……こ、こんにちは…。七瀬 美子(ななせ みこ)です」
思わず少しかしこまって自己紹介すると、その人は目を細めて笑った。
「初めまして。結城 遥(ゆうき はるか)です。よろしくね、美子ちゃん」
名前を呼ばれた瞬間、胸がドクンと跳ねる。
その笑顔に、柔らかく落ち着いた声に――すべてに、瞬間的に心を奪われてしまった。
(……わぁ……なに、この人……。かっこよすぎる……っ)
手や足が緊張で少し震えているのに気づき、視線を逸らそうとしても無理だった。
心臓がうるさくて、まるで部屋中に響いているみたい。
――一瞬で、私はこの人に一目惚れしてしまった。
ふと視線を戻すと、結城先輩はただ優しく微笑んでいて、その表情の柔らかさにさらに胸がきゅっと締めつけられた。