滾る恋情の檻
 その時、少し離れたところにいた男子学生が、美子に気づいて大げさに声を上げた。

「えっ!?遥、誰この子!?めちゃくちゃ可愛いじゃん!知り合い!?」


美子はその声の大きさに、一瞬びくっと肩をすくめる。


注目された恥ずかしさで耳まで赤くなり、うつむきそうになる。


だが、遥は少し苦笑しながら彼に答えた。


「高校の後輩。俺の友達の妹なんだ」


「はぁ!?友達の妹!?こないだ誰か紹介してって言っても、いないっつってたじゃん!なんでこんな美人を隠してたんだよ!」


「隠してたわけじゃないって」

友人は大げさに頭を抱えてみせて、さらに美子に視線を向けてきた。


「いやいや、本当に可愛すぎてびっくりした。遥、普段から可愛い子に知り合い多すぎだろ!」

「やめろって」


遥は少し困ったように笑う。


その笑みが自分の存在を肯定してくれているみたいで――けれど、先輩の周りにはやっぱり綺麗な人が多いんだ…と、美子の心は複雑な気持ちになった。


美子は少し戸惑ったあと、ふわりと笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


柔らかく、自然に。まるで何度もそういう場面を切り抜けてきたかのような大人びた微笑み。


「……っ」


友人は一瞬で固まり、顔を真っ赤にする。


「ちょ、ちょっと……やば……なんだこれ……」


思わず口元を手で覆い、うろたえたように遥の方を見やる。


「な、なぁ遥……お前の後輩、破壊力すごすぎないか……!?」

「声、でかすぎ」


その言葉に、遥は苦笑しながら軽く肩をすくめたが、その目はどこか複雑そうに美子を見ていた。


美子はそんな視線に気づくことなく、にこやかに会釈する。


けれど胸の奥では――


(……なんで、他の人とは普通に話せるのに、先輩にはまともに笑顔すら見せられないんだろう…)


そんな思いがぐるぐると渦を巻いていた。
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