滾る恋情の檻
「美子ちゃん、彼氏いないの?」

「映画ってどんなジャンル観るの?俺も好きなんだよ」

「一人暮らし?どこ住んでるの?」


矢継ぎ早の質問に、笑顔を作りながらも答えに詰まる。


胸の奥がざわざわして、どうしていいのか分からなくなりかけた、その時だった。


「――ちょっと。美子ちゃん困ってるから」


不意に聞き慣れた声がして、横を見れば、遥が自然に美子の隣へと腰を下ろしていた。


その動きがあまりにもさりげなくて、誰も不自然に思わない。


けれど美子の胸だけは、ドクンと大きく跳ねていた。


「ごめんね、美子ちゃん。飲み物そろそろなくなりそうだね」

「……あ、はい」

「何飲みたい?」

「えっと……ジンジャーエールで」


当たり前のようにグラスを受け取ってくれる仕草。


男の先輩たちの視線をさらりと遮るように、私のすぐそばに居場所を作ってくれる。


(……先輩……守ってくれてる……?)


そのさりげなさが、胸を熱くした。


別に特別な言葉をかけられたわけじゃない。


でも、遥が隣にいるだけで、周囲のざわめきが遠ざかっていくようで――すごく、安心した。


「ほら、気楽に食べなよ。せっかくの新歓なんだから」


柔らかな笑顔と低い声。


それだけで、心臓がまた大きく鳴った。


(やっぱり……ずるい)


一瞬で、私の気持ちを全て持っていってしまう……


揺れるグラスの中で氷がカランと鳴り、その音さえ、胸の鼓動に重なって響いた。
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