滾る恋情の檻
◇ ◇ ◇

トイレの個室に入ると、しんとした静けさにようやく息をつく。


胸の奥にたまったざわめきを落ち着かせようとするけれど、耳に入ってきた声に息が止まった。


「ねぇねぇ、遥くんってまだ彼女いないんだよね?」


洗面所の前で化粧直しをしている先程の女の先輩たちの声だった。


「そうそう。ずっとフリーだって。あんなにモテるのに不思議じゃない?」

「この前、誰かが、男が好きなんじゃないかって冗談言ってたよ」

「えー、ありそう〜!」


軽い笑い声が響く。


個室の中で、美子の胸は高鳴り、そして不安に締めつけられていった。


「でもさぁ、さっきの一年生……美子ちゃん? あの子絶対遥くん狙ってるよね」


その言葉に、心臓がドキリと嫌な音を立てて跳ねた。


「だよね〜。地元一緒とか言ってたし、追いかけてきたんじゃない?」


「まぁでも……遥くん、どんなに可愛い子から告白されても断ってるらしいし。無理でしょ」


笑い混じりの声に、胸がぎゅっと痛む。


高校の時は当然みたいに彼女がいたから、
先輩に今彼女がいないと知って、嬉しかった。


けれど同時に、遥のまわりにいる人たちはみんな綺麗で大人びていて――


(やっぱり、私なんかじゃ近づけない……)


期待と不安がごちゃ混ぜになって、涙がこぼれそうになる。


スマホを握りしめ、深呼吸で必死に押しとどめた。


彼女たちが立ち去る気配を確認してから、ゆっくりと個室を出た。


洗面所に立ち、鏡越しに自分を見る。


ほんのり赤くなった頬。丁寧に巻いた髪。


今朝は少しでも大人っぽく見えるようにと、がんばった。


なのに――。


(……大人っぽくなった、なんて思ってたけど。全然、自信ない)


鏡の中の私は、思っていたより幼くて、心許なくて。


その弱さをまざまざと見せつけられているようで、胸の奥が痛んだ。
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