滾る恋情の檻
すると、


「あっ、ここ、答え違うかも…」


ノートを覗き込む先輩が、そう言いながら指でトントンと私の答えをつついた。


その白くて骨ばった手や、細くて長い指先が綺麗で、思わず見つめてしまう。


「ここはね———」


優しく解き方を教えてくれる先輩。


笑った唇、柔らかで落ち着いた低い声、指先――すべてが近くて、胸が苦しい。


お礼を言いながらも、隣にいる先輩の存在が強すぎて、無意識に無言になってしまった。


「美子ちゃん?」

「…っ」


どうしよう、どうしよう。上手く話せない。


何か、話題を…


「結城先輩って…大学、どこ受けるんですか?」


思い切って聞いた質問に、先輩は少し考えて答えた。


「んー…S大だよ」


名門大学。しかも地元から離れないと通えない。


(……そっか……S大…。私なんか、まだまだ全然届かない……)


美子とは別世界の場所。 

しかも、兄の志望校とも違う。


胸の奥がぎゅっと重くなり、ふわふわしていた心が沈む。


遠くに行ってしまうかもしれない――そう考えるだけで、寂しさが押し寄せる。


(でも……会えても、会えなくても、結局、先輩はやっぱり手の届かない存在……)


そう思った瞬間、ふと頭をよぎったのは――学校で見かけた、先輩の隣に立つ綺麗な人。


大人っぽくて、おしゃれで、先輩の隣が似合う女の人。


その笑顔は自然で、絵のようにお似合いで。


思い出すだけで、胸がきゅっと縮こまった。比べるまでもない。私は幼すぎて、何も持っていない。


その事実すべてが胸を締め付ける。


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