滾る恋情の檻
(……え……2人きり……?)

突然の状況に、心臓が早鐘のように打ち、手が小さく震える。

「あっ………結城先輩………あの、麦茶でいいですか…?」

恐る恐る声をかけると、先輩はふわりと笑った。

「うん。ありがとう、美子ちゃん」


名前を呼ばれるだけで、今日も生きててよかったと感じるくらい嬉しくて、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


麦茶を注ぐ手が、少し震えた。


「どうぞ…」

「ありがとう」


先輩に麦茶の入ったグラスを渡し、再び課題をするためテーブルに戻る。


先輩は、当然、そのまま兄の部屋へ行くと思っていた。


――なのに、何故か、すっと私の隣に座った。


「えっ?」


予想外の行動に、ドキリと心臓が跳ねる。
急に近づいたその距離感に、頭が真っ白になった。


「美子ちゃんって……いつもリビングで勉強してるよね?」


耳元に、低く、柔らかい声が落ちた。


「……っ、」


近すぎる。


少し動けば肩が触れる近さ。


はじめてこんなに間近で感じる先輩に、全身が脈打つ。


「あ………はい。えっと…テレビの音を聞きながらの方が集中できて…」


言葉がうまく続かず、顔が熱くなる。


どうしよう。

嬉しいのに、苦しい。
< 6 / 42 >

この作品をシェア

pagetop