滾る恋情の檻

視線を伏せ、無意識にノートに目を落とす。


「美子ちゃん?」

「……っ」


どうしてこんなに切なく胸が締め付けられるのだろう。


ちゃんと、話さなきゃ。


先輩に変な子だと思われちゃう…。
 

ちゃんと……っ。


焦る気持ち、切ない気持ち、苦しい気持ち。


その全てで感情がぐちゃぐちゃになっていた。


その時だった。


スッと、私の目の前を影が覆った。


そして――何の前触れもなく、


唇に柔らかい感触が、触れた。


「……っ」


あまりの唐突さに、息が止まり、体が硬直する。


思考が追いつかず、頭が真っ白になる。


心臓は早鐘のように打ち、全身が熱くなる。


(……え?)


――――それが、先輩の唇だと理解するまで、少し時間がかかった。


唇が離れると、先輩はいつもの優しい笑顔を浮かべている。


でもその目には、ほんのり色気と熱を帯びた光が宿っていた。


「……え……な、なんで……?」


震える声で尋ねると、先輩は少し首をかしげ、悪びれる様子もなく答えた。


「ん…?美子ちゃんが、可愛かったから」

「っ」


胸がぎゅっと掴まれるような感覚。


それは、私にとって初めてのキスだった。


心臓がバクバクと破裂しそうで、全身がカーッと熱くなる。


唇の余韻が残る。必死で呼吸を整えようとする。


胸の高鳴りと戸惑いで、手が震えた。


でも隣の先輩は、何事もなかったかのようにノートを覗き込み、静かに問題を見ていた。


「美子ちゃん?」


先輩の声にハッと顔を上げる。 


やっぱり遥の笑顔は、何も変わっていない。


だからこそ、心はさらに混乱した。


(……どうして……?キスしたのに、普通に……なにも、なかったみたいに……)


不安と期待、甘さと切なさが入り混じり、胸は張り裂けそうに高鳴っていた。


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