桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて

第1章 桃と武人

それは私にとって、人生を大きく変える日だった。

三年に一度の妃募集の日。

傾きかけた実家の簪屋を救うために、私は思い切って応募した。

父が丹精を込めて仕上げた簪を胸に抱きしめ、ただ無我夢中で宮廷へ向かったのを覚えている。

まだ若い皇太子様のために行われる初めての募集。

――けれど実際、私はそのお姿を一度も見たことがなかった。

どんな御方なのかも知らず、憧れや恋心など抱けるはずもない。

ただ、選ばれれば家が救われる、それだけを願っていた。

「柳小桃。そなたを皇太子の後宮に迎える。」

名前を呼ばれた瞬間、胸がどくんと鳴り、膝が震えた。

選ばれたのだ。本当に私が。

けれどその喜びはすぐに不安へと変わっていく。

与えられたのは最下位の身分、才人。

華やかに着飾った娘たちに囲まれ、私は自分が小さく見えて仕方なかった。

皇太子様に目を留められることなど決してない。
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