桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
支度金を渡された私は、それをそっと父に差し出した。

「小桃……本当に行くのか。」

父の声は震えていた。

店を守るため、私が後宮へ行くしかないことは、父自身が一番よく分かっている。

それでも娘を手放す寂しさを隠しきれないのだ。

「お金だけもらって、逃げるわけにはいかないでしょ。」

私が笑ってみせると、父はしばらく黙り込み、それから引き出しの奥から一本の簪を取り出した。

「もし皇太子様に寵愛を受けることがあったなら……これを着けるといい。」

金の細工をほどこした、眩いほどに美しい簪。

商人の娘には不相応なほど上等な品だった。

「ありがとう、父上。」

簪を受け取ると、胸の奥がじんと熱くなった。

父は厳しい目をしながらも、かすかに笑みを浮かべる。

「体だけは気をつけろよ。」

「はい。」

私は深く頷き、簪を懐に抱きしめた。

それは父の想いであり、私にとってただ一つの護りだった。
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