桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
それでも縁香は諦めなかった。

「どうやったら、皇太子様と会えるのかしら。」

そればかりを毎日のように繰り返す。

夢見るように瞳を輝かせる彼女を前に、私はいつも苦笑いするしかなかった。

ある日、机の上に置かれた出来立てのかんざしを手に取り、私は縁香に差し出した。

「これ、あげる。」

「えっ、いいの?」

「ええ。縁香ならきっと似合うから。」

「やったあ!」

縁香は子どものように声を弾ませ、嬉しそうに髪に挿して見せた。

そんな姿を眺めていると、彼女はただの恋に憧れる乙女にしか見えなかった。

そして私は――ただかんざしを作るだけの女。

「皇太子様のお相手」などと立派な役目を言われても、現実の私はここで静かに針や小刀を握っているばかりだ。

窓辺に立ち、空を仰ぐ。

同じ宮殿にいるというのに、皇太子様と私の間には、果てしなく高い壁があるように思えた。

まるで、別の世界に生きているみたいに。
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