桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そんな中、私にはひとつだけ密かな楽しみができた。

それは、部屋に面した小さな庭に実った桃の木。

枝いっぱいに丸い実をつけて、夕陽に照らされると宝玉のように輝いて見えた。

「うわあ……美味しそう。」

私は思わず手を伸ばし、ひとつもぎ取ってみる。

皮を指でつるりとむき、かじれば果汁が口いっぱいに広がった。

「うーん……柔らかくて甘い。」

思わず頬がゆるむ。

その様子を見ていた縁香は、呆れたように眉をひそめた。

「よく庭の桃なんて食べられるわね。」

「別に汚いものじゃないでしょ。」

私は笑って肩をすくめる。

けれど、本当は分かっていた。

本来なら妃としての身で、庭の果実を勝手に口にするなんてもってのほか。

宮廷の作法を重んじる人々に知られたら、眉をひそめられるに違いない。

それでも私は、こっそりと桃を食べるひとときをやめられなかった。

この閉ざされた後宮で、唯一自由を感じられる時間だったから。
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