桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そんなある日のことだった。

いつものように庭で桃の実をもぎ取り、ひと口かじった瞬間。

――ふと、人の気配がした。

「うん、美味しい。」

ぎょっとして振り向く。男性の声だ。

この後宮に、男などいるはずがない。

けれどそこに立っていたのは、刀を腰に下げたひとりの武人だった。

(どうして……? 男性は立ち入り禁止のはずなのに。)

思わず息を呑んだ私の前で、その武人はまるで自分の庭であるかのように枝に手を伸ばし、熟れた桃をもぎ取ると、豪快にかじった。

「君も食べてるの? 美味しいよね。」

気づかれた――。心臓が跳ねる。

けれど、武人はにこっと人懐っこい笑みを浮かべるばかりで、咎める気配もない。

「え、ええ……美味しいです。」

あまりにも堂々としているせいで、怒る気にもならなかった。

むしろ、その大らかさに思わず頬がゆるんでしまう。

それが、私と彼との最初の会話だった。
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